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890話

聡明な彼女は人を見る目があった。自分が入ってきたときに彼女に目をつけられたのも不思議ではない。私の身には何かしら人生の波瀾を経験した雰囲気があり、私の微笑みにさえ、人を悲しませるような憂いが漂っている。それこそが彼女を魅了した部分なのだろう。

少し謎めいた男性は、いつも女性に知りたいという衝動を抱かせるものだ。

「今夜は蛾になってみましょうか」

小夢はそう考えながら、グラスを手に取り、チンと音を立てて私のグラスと触れ合わせた。そっと一口含むと、喉から胃までが火照るように熱くなった。

対面の私は、頭を上げてごくごくと一気に大きなグラスを空けた。

「どうしたの?」

私は少し恥ずかしくな...