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743話

バルコニーから聞こえてきた物音に、木に潜んでいた人影はすぐに警戒し、あたりをきょろきょろ見回して、息を殺した。

相手も異変に気づいたようだな、と私は心の中で思った。

だが、相手はまだ自分の位置を把握していないようだ。これが最大の利点だ。この機会に不意打ちを食らわせるべきだろう。

心の中で作戦を決めると、私は行動を開始した。

木の上の人物には、バルコニー近くの花と草むらがざわめき、そして目の前に黒い影が一瞬過ぎ去るのが見えた。

幻を見たのかと思い、慌てて首を振った。

「やっぱり幻覚か、俺は緊張しすぎたんだな!」

木の上の人物は呟いた。

「幻覚じゃないよ、れっきとした実在だ。今、怖...