4話
取締役会長室。
「馨月、お前の未来の夫を前にして、どうしてそんなに無礼な態度を取るんだ？早く謝りなさい！」
蘇東山は葉来の向かいのソファに座り、冷ややかな表情で言った。
葉来は彼が特別に海外から呼び戻した、蘇馨月を守るための世界最強の兵王だ。こんな強大な存在が、誰でも簡単に頼めるものではない。
彼と葉来の関係が良好でなければ、さらに蘇馨月を葉来に嫁がせる約束をしていなければ、日々多忙な葉来が一人の小娘を守るなんてことをするだろうか？
しかし蘇馨月が葉来の身内になれば話は別だ。自分の妻を、自分が守らなければ誰が守るというのか？
もちろん、彼が葉来を説得して蘇馨月との結婚に同意させた理由には、もう一つの後押しがあった。それは葉来の家族だ。もし彼がこの件を葉家の老太爺に伝え、葉家から葉来に圧力をかけさせなければ、この話はそう簡単にまとまらなかっただろう。
「謝る？あんな下劣で厚顔無恥の変態に謝るなんて、絶対に無理！」
蘇馨月は葉来を不機嫌そうに一瞥し、雪のように白く長い足を組んで、義憤に燃えて言った。
「バカなことを言うな！葉先生はわざわざお前のために選んだ婿だ。彼でさえお前を守れないなら、他の誰も期待するな！」
蘇東山は怒鳴った。
「この人が？見てよ、あの能天気な様子。一目見ただけで力なんて全然ないのが分かるわ。私を守る？むしろ私を弄ぼうとしているだけでしょ！」
蘇馨月はカフェで葉来が彼女に手を出した時の光景を思い出し、怒りが込み上げてきた。
「力がない？ふふ……」
葉来は軽く笑い、何気なくフルーツ皿からリンゴを取り、袖で軽く拭うと、周囲を気にする様子もなく「カリカリ」と音を立てて食べ始めた。食べながら言った。
「可愛い彼女さん、実を言うとね、君の身体には少なくとも十箇所以上、盗聴器と追跡装置が仕掛けられている。さっきはそれを取り除いてあげただけさ」
そう言いながら葉来は手をガラステーブルに伸ばし、「カラカラ」という音と共に三つの黒光りする盗聴器を転がした。それらは蘇馨月の目の前に転がっていった。
蘇東山はこの光景を見て、顔色が急変し、驚愕の表情で言った。
「葉先生、これはいったいどういうことですか？」
「ふん！」
葉雲が口を開こうとしたとき、蘇馨月は鼻を鳴らし、軽蔑の表情で言った。
「おじいちゃん、彼の嘘を信じるの？私が保証するわ、この盗聴器は絶対に彼があなたを騙すために用意したものよ！」
そう言いながら、彼女は「あなたの小さな策略なんて見抜いているわ」というような視線で、葉雲を強く睨みつけた。
「葉先生、どうなんですか……」
蘇東山の疑わしげな視線も葉来に向けられた。その眼差しは一体どうなっているのかと尋ねているようだった。
彼はもちろん葉来がこのような小細工で自分を騙すとは思っていなかった。なぜなら葉来にはそんな必要がまったくないからだ。
結局、蘇馨月を葉来に嫁がせるのは、彼が葉来に頼み込んで承諾してもらったことであり、葉来から持ちかけた婚約話ではなかったのだから……
彼はただ、これが一体どういうことなのか知りたかっただけだ！
「ふふ、そうかな？」
葉来は突然立ち上がり、蘇馨月の胸に向かって手を伸ばした……
「あ、あなた何するつもり？」
蘇馨月は葉来の突然の行動に驚き、彼が恥ずかしさのあまり激怒して、口封じに彼女を殺そうとしていると思い込み、すぐに立ち上がって逃げようとした。
「座っていなさい！自分の夫になる人に少し触られたくらいでどうした！」
蘇東山は恥ずかしさを感じつつも、突然厳しく叱りつけ、ようやく蘇馨月を落ち着かせた。
しかし葉来が彼女の胸に伸ばした手は、突然上方に移動し、蘇馨月の精巧なヘアピンに触れた。そして下に引っ張ると、ヘアピンが外れると同時に、蘇馨月の豊かな髪が栗色の滝のように流れ落ち、芳しい香りが漂った。
葉来はその香りを軽く嗅ぎ、手を引っ込めると、取り外したヘアピンをテーブルに投げ捨て、淡々と言った。
「ご覧なさい、このヘアピンにもまだ作動中の盗聴器がある。さっきの私たちの会話も、誰かに盗聴されているよ」
蘇東山はこの言葉を聞いて、顔色が一気に引き締まり、注意深くそのヘアピンを観察し始めた。
「ふん、そんなはずないわ！嘘つき、早く出て行って！」
しかし蘇馨月は冷笑いを浮かべて言った。
彼女がこれほど自信を持っていたのは、このヘアピンが正午の約束のために彼女が臨時で買ったものであり、しかも誰の手にも渡っていなかったからだ。どうして盗聴器などついているはずがあるだろうか？
「信じないのか？」
葉雲は微笑み、突然手を伸ばしてヘアピンを強く叩いた。「バン」という音とともに、ヘアピンはバラバラになった。
しかしそれが重要なのではない。
重要なのは、その壊れたヘアピンの中から、火花と「ジジッ」という音が絶え間なく聞こえ、さらに多くの精密部品の破片が見えたことだ。一目で盗聴装置だとわかった！
この光景を見て、蘇東山の顔色が変わっただけでなく、蘇馨月自身も言葉を失い、驚愕の表情を浮かべた。
「くそったれ！誰だ、私の蘇東山の孫娘に目をつけるとは！」
蘇東山はテーブルを強く叩き、瞬く間に激怒した。
全身至るところに盗聴装置があるなんて、恐ろしすぎる！
「こんな盗聴装置だけでよかったと思いなよ。盗撮カメラは見つかりやすいから設置されてなかっただけで、そうでなければ、僕の可愛い彼女さんの完璧なプロポーションが、他人の目の保養になっていたところだよ」
パチリと音を立て、葉来はタバコに火をつけ、深く一服吸って、ゆっくりと言った。
この言葉を聞いて、蘇馨月の顔色は一気に暗くなった。今回は葉来が彼女をからかったことに対してではなく、彼女が突然別のことを思いついたからだった。そして心配そうに言った。
「じゃあ……私の家には盗撮カメラは仕掛けられてない？」
彼女はよく家の中で服を着ずに歩き回ることがあった。もし家に盗撮カメラがあれば、盗撮された映像や写真が流出したら、彼女は生きていけなくなる！
「安心して、朝早くに君の家を見てきたよ。何もなかった。君が住んでいるマンションは高級マンションで、様々なセキュリティ設備が整っている。一般の人間が入るのは難しいし、ましてや顔認証がないと君の家には入れないからね」
葉来は煙の輪を吐き出し、首を振って言った。
「あら、それなら安心だわ」
蘇馨月は安堵の表情で胸をなでおろし、ちょうど息をつこうとしたとき、突然彼女の体が硬直し、急に葉来に向き直って尋ねた。
「朝？あなたが私の家に？私は知らないけど？」
「そうさ、僕が入った時、君は裸で布団にくるまって寝てたよ。ついでに写真も数枚撮ったんだ。見てみる？」
葉来は眉を上げ、何気なく言った。
「なっ！」
蘇馨月はこの言葉を聞いて、顔が青ざめた。
特に葉来のスマホに、本当に彼女が朝、家で寝ていた写真があること、そして見るに耐えない寝姿が……
「この変態野郎！早く写真を消しなさいよ！」
蘇馨月は泣きそうになり、怒りと焦りで葉来のスマホを奪おうとした。
「おいおい、馨月、どうせ葉先生のものになるんだから、旦那さんに先に見られたって構わないだろう」
蘇東山はこの光景を見て、むしろ嬉しそうに笑い出した。
「おじいちゃん！孫娘がいじめられてるのに、どうしてこの厚顔無恥の味方をするの！」
蘇馨月は泣きたい気持ちで、一番彼女をかわいがっているはずのおじいちゃんまでもが彼女を裏切ったと感じた！
しかし、スマホを奪おうとしている最中、突然、彼女は何かを思い出したように立ち止まり、葉来に詰問するように言った。
「待って、あなた私の家はとても安全だって言ったわよね？しかも顔認証がないと入れないって。あなたはどうやって私の家に入ったの？」
この質問を聞いて、蘇東山も急に好奇心を抱いた。
「えっと……それはね、窓から『歩いて』入ったんだ……」
葉来は気まずそうに煙の輪を吐き出し、自分の心の動揺を隠した。
結局、彼はたった今、不法侵入は犯罪だと言ったばかりだったのだから。
「歩いて？窓から？」
蘇馨月は言葉に一瞬戸惑い、すぐに顔色が変わった。
彼女の住んでいる場所は13階だ！
しかも外壁は滑らかなタイルで覆われている。どうやって歩く？いや、どうやって登る？
「いい度胸ね、不法侵入するなんて。訴えてやるわ、刑務所で一生を過ごせばいいわ！」
しかし、すぐに驚きから我に返った蘇馨月は、問題の核心を捉えた。
「馨月！無礼なことを言うな！」
蘇東山は突然立ち上がり、まず蘇馨月を叱りつけ、それから葉来に丁寧に言った。
「葉先生、時間がありません。あなたと馨月の結婚式、早めに済ませましょうか？」
葉来のこれら次々と見せる神業のような技は、彼を完全に驚かせていた。以前は多少疑っていたが、葉来の「世界最強の兵王」という称号は誇張ではないのかもしれない。
しかし今や、全くの誇張ではないどころか、彼の想像をはるかに超えていた！
彼は確信した。葉来が蘇馨月の側にいれば、彼女は絶対に安全だと！
「おじいちゃん、私はこの野郎と結婚したくないわ！」
蘇馨月は焦って言った。
「だめだ！このことはお前が決めることではない！」
蘇東山は厳しく言い放った。
「死んでも嫁がないわ！」
蘇馨月は悔しそうに言った。
「ふん、お前が死んでも、私は人を遣わせて、お前を裸にして葉先生のベッドに送り込むぞ！」
蘇東山は怒りを露わにした。
蘇馨月は涙ぐんだ。「おじいちゃん、老いて不謹慎だわ！」
葉来：「……」
特に葉来は、顔をしかめていた。
この老人、彼を何だと思っているんだ？
「お孫さんが望まないなら、また改めて話し合いましょう」
葉来は少し気まずそうに言った。展開が速すぎるではないか？
蘇馨月も何度もうなずいた。
葉来がやっと彼女が反感を持たない言葉を言ってくれた。
「改めて？」
蘇東山はこの言葉を聞いて、眉をひそめ、指で強く示しながら言った。
「必要ない！」
「日を選ぶより今日が一番だ。今夜二人とも既成事実を作って、この件を片付けるんだ！」