1話
「名前！」
「葉来です」
「性別！」
「女です」
カフェのテラス席で、白いシャツを着て雪のように白い長い脚を組んだ絶世の美女が、冷たい瞳で目の前の青年を見つめ、事務的に尋ねていた。
「女？お前は明らかに男だろう！」
蘇馨月は柳眉をひそめ、驚いた表情を浮かべた。
「からかってるのね！」
彼女は葉来の遊び心に満ちた眼差しを見て、自分が弄ばれたことに気づき、怒って机を叩くと立ち上がり、その艶やかな体を葉来に近づけ、見下ろすように言った。
「これは見合いよ、真面目にして！」
彼女の動きに合わせて、二人は上下に向かい合い、お互いの息さえ相手の顔に感じられるほどの距離になった。
特にその豊かな胸元は、大きな波のように揺れ動いた。
葉来の視線はその深い谷間に釘付けになり、なかなか離れなかった。
「何を見てるの！」
蘇馨月は葉来の下心のある視線に気づき、顔を赤らめて慌てて、少し見えていた胸元を手で隠した。
「ここが…」
葉来はそう言いながら、自然な流れで手を蘇馨月の豊かな胸に伸ばした。
「このっ変態！」
蘇馨月の顔が一瞬で青ざめ、慌てて後ろに下がって避けようとした。
ところが不注意で、銀色のハイヒールが空を踏み、バランスを崩して後ろに倒れそうになった。
「きゃっ！」
悲鳴を上げ、蘇馨月は恐怖で顔色を変え、目をきつく閉じた。
しかし時間が経っても、痛みは感じなかった。
目を少し開けてみると、反射的に伸ばした右手を誰かが握っていることに気づいた。
その人が彼女を適切に引いて、転倒を防いでくれたのだ。
自分をつかんだ人が他でもない、彼女を危うく転ばせた張本人だと気づくと、顔を赤らめて怒りを込めて言った。
「この馬鹿！離して！」
「はいよ」
葉来は素直に手を離した。
「あなた…」
慌てた声とともに、美女はバランスを失い、また地面に倒れそうになった。
なぜまた？
それは彼女が地面に触れそうになった瞬間、魅惑的な体が誰かの腕に抱きとめられたからだ。
この急な上下動に、蘇馨月はもう頭がおかしくなりそうだった。
誰が自分を救ったのか？
蘇馨月は呆然としていた。
しかし自分を救ったのがまた葉来だと分かった時、特にその憎たらしい男の手が彼女の豊かな胸に触れていることに気づいた時…
「この卑劣な変態！」
蘇馨月の目は恐怖に見開かれ、顔には怒りが満ちていた。彼女は手を伸ばして葉来の顔に平手打ちを食らわせようとした。
もし視線が人を殺せるなら、彼女はきっと葉来を千切りにしていただろう！
「おいおい、美女、恩を仇で返すのかい…」
葉来は軽く押して蘇馨月を正しい姿勢に戻し、ついでに彼女のセクシーな尻を軽くたたいてから、素早く身をひるがえして飛びのき、危うくその鋭い一撃を避けた。
その速さは、まるで不意を突かれた猫のように、想像を絶するほど速かった。
「あなた、この厚かましい…」
「変態！」
「その通り！」
「……」
蘇馨月は今日ほど怒りを感じたことはなく、頭さえうまく回らなくなっていた。
最初に葉来に対して抱いた好感は、今や完全に消え去っていた。
葉来は彼女の心の中で、すでに不埒な浮気者の代名詞となっていた。
「言いなさい！なぜ私と見合いしようとしたの？何が目的なの！」
蘇馨月は少し痛む尻を押さえながら、歯を食いしばって怒りに震えた。
その様子は、まるで自分の唇ではなく、葉来を噛んでいるかのようだった。
今や普段は高慢な女社長も、爆発寸前だった。
「俺が来たいって言ったわけじゃないさ。お前の爺さんに頼まれたんだ。何を興奮してるんだよ」
葉雲は無実の表情で両手を広げた。
「あなたは救いようがない！」
蘇馨月はもはや話を聞く余裕もなく、まるで人を殺すかのように冷たい声で言った。
「絶対にあなたのような人と一緒に暮らすことは許さない！絶対に！」
そのとき、突然スーツ姿のボディガードたちが押し寄せてきた。
同時に蘇馨月の女性秘書、李佳怡も来ていた。
明らかに彼らも蘇馨月の怒りの声を聞いて、急いで助けに来たのだった。
「社長、大丈夫ですか？」
李佳怡が真っ先に駆け寄り、シャツと髪が少し乱れた蘇馨月を見て、非常に心配そうに尋ねた。
「大丈夫よ」
今の蘇馨月は少し取り乱していたが、すぐに上位者の威厳を取り戻した。
彼女は殺意を含んだ目で葉来を見つめ、怒りを込めて命じた。
「彼を捕まえて、連れ…連れて行きなさい！」
彼女は最初、葉来を警察に連れて行くつもりだった。
しかし考え直すと、葉来が警察署でデタラメを言って彼女の名誉を傷つける可能性を心配し、急遽言い方を変えた。
蘇馨月の言葉が落ちるとともに、体格のいいボディガードたちが瞬時に集まり、葉来を取り囲んだ。
「俺は見合いに来ただけなのに、やり過ぎじゃないか…」
葉来は呆れた様子だった。
「黙りなさい！連れて行って！」
蘇馨月の顔は冷たさに満ちていた。彼女の心の中の怒りは、もはや抑えきれないほどだった。
このまま居たら爆発してしまうと分かり、すぐに背を向けて歩き出した。
しかし一歩踏み出したとたん、足が空を踏んだ。
もし隣にいた李佳怡が素早く支えていなかったら、また地面に倒れるところだった。
そのとき彼女は初めて、片方のハイヒールのかかとがいつの間にか折れていたことに気づいた。
「もう、最低！最低！最低！」
蘇馨月は怒りながら壊れたハイヒールを蹴飛ばし、片足ずつ跳ねるようにしてカフェの入口へ向かった。
「おい、行くなよ！まだ返事もらってないぞ！」
蘇馨月が道端に停まっている白いアウディに近づき、ドアを開けて座り込もうとしたとき。
突然後ろから葉来の大声が聞こえた。
「わっ！」
この言葉を聞いて、すでに怒り心頭の蘇馨月は足元がふらつき、よろめいて後部座席に倒れ込んだ…
「ばさっ」
軽い音とともに、一束のA4用紙が散らばった。
そのとき蘇馨月は初めて、自分が葉来の資料を持っていたことに気づいた。
葉来、世界唯一のキングクラス特殊部隊員！
五年のキャリアで、敵を恐怖させる存在に。
かつてアフリカのサハラ砂漠の奥深くで、長年逃亡していたテロ組織の首謀者を成功裏に排除し、南米の熱帯雨林でS級特殊能力部隊を単独で撃破、さらに極北の氷原では…
ほぼ一ページ分の紹介文は、すべて葉来に関するものだった。
蘇馨月は驚いた表情で二ページ目、三ページ目をめくったが、それもすべて葉雲の資料だった。
しかもこれらの資料に書かれている功績は、まるで千夜一夜物語のように、人々を驚かせるものばかりだった。
「ふん！この厚かましい男、物語を作るのは上手いわね。一体どんな無責任な人がこんな情報を集めたのかしら！」
蘇馨月はもちろん信じず、これらの資料を手で払いのけると、秘書兼運転手の李佳怡に向かって憎々しげに言った。
「発車して！」
エンジン音とともに、車は白い幻影のように走り去り、すぐに通りの向こうに消えていった。
「はっくしょん！」
その時、ある邸宅の中で、唐装の老人が突然くしゃみをし、鼻をこすりながら、だるそうに腕時計の時間を確認した。
突然、彼は寝椅子からピンと背筋を伸ばして立ち上がった。
「しまった、葉の小僧が馨月と会えたかどうか聞くのを忘れていた！」