南蘭は大物社長のオフィスに向かう途中で突然意識を失い、自分が書いた小説の世界に転生してしまった……主人公の鍾毓琰の姿は、まさにあの社長そのものだった。彼がこれは社長が仕組んだ芝居だと思っていた矢先、暗殺の現場に遭遇する。鍾毓琰が身を挺して救ってくれたことで、彼はこれが芝居ではなく本当に異世界転生したのだと理解した。

これまで読んできた数々の小説の定石からすれば、自分の役目は男女主人公がハッピーエンドを迎えるよう手助けすれば元の世界に戻れるはずだと南蘭は考えた。そこで二人の仲を早く進展させる計画を立て、自分も早く帰れるようにと行動を開始する。しかしその計画を実行していく過程で、南蘭は意外なことに気づく——自分は鍾毓琰に対して愛情を抱いていた。それも恋人としての愛情だった。

だが慎重に気持ちを探ろうとした時、鍾毓琰は彼を敵国のスパイだと疑い、「男同士というのは気持ち悪い」と言い放つ。心が砕け散った南蘭は言霊国を去ることにした。

鍾毓琰もまた南蘭がそばにいなくなったことで次第に苛立ちを募らせていく。ついには沈晩吟が見かねて彼を叩き起こし、ようやく鍾毓琰は自分の本当の気持ちに気づく。スパイだろうが何だろうが構わないと、巫咸国まで追いかけて南蘭を連れ戻した。

サブカップルの話：沈晩吟もまた転生者で、南蘭と同じく同性を好む。南蘭と違うのは、彼女は早くから自分の性向を受け入れており、沈琳岚に一目惚れするとすぐさま追いかけ始め、相手を振り向かせようと全く隠さずに行動していたことだ。最初は沈琳岚に拒絶されていたが、あるヒロイン救出の一件をきっかけに二人の関係は近づき、沈琳岚も徐々に沈晩吟への見方を変えていく。そして360度死角なしの甘い攻撃に沈琳岚は落ちてしまい、二人は仲睦まじく結ばれたのだった。

軍師はまた厄介事を起こす

沈晩念は沈晩吟の方を振り向いた。彼女の目にも驚きが満ちていた。
「まさか、鍾毓琰と曹修之の二人が……」
いや、いや、そんなはずがない。彼ら二人がそんな関係であるわけがない。絶対にありえない。
沈晩吟は首を振り、頭の中の奇妙な考えを全て振り払うと、再び鍾毓琰たちの様子を観察し始めた。
曹修之は鍾毓琰の馬に乗ってみると、どこもかしこも居心地が悪く感じた。特に鞍は本当に尻が痛かった。
「あの……すまないが、やはり降りた方がいいかもしれん。この座り方は実に、窮屈でならん！」
だが鍾毓琰はまだ自分の考えを確かめ終えていなかった。どうして曹修之をこのまま行かせるだろうか。
「私につかまれ」鍾毓琰は命令...

54話