




2話
今や医仙の伝承を手に入れたことで、娘の病を治すことも難しいことではなくなった。
叶然は娘の病状を診てみると、あまりにも時間が経ちすぎて、すでに手の施しようがないほど重症化していた。
今から手術の準備をしても、もう間に合わない。
だが叶然には華佗針がある。死者を蘇らせ、骨に肉を付ける技術で、娘の病を治すなど指を弾くほどの容易さだ。
土砂降りの雨を見上げ、叶然は雨宿りできる場所を探し、そこで娘の治療をすることに決めた。
長い間歩き続け、ようやく人気のない橋の下にたどり着いた。
道端の微かな明かりを頼りに、叶然は娘を地面に横たえた。
右手を一振りすると、細い銀針が叶然の指先に滑り落ちた。
彼はツボを見定め、晴児の胸に針を刺した。
一本の針が落ち着くや否や、次の針が静かに現れ、ほんの数息の間に、晴児の胸には無数の銀針が密集して刺さっていた。
そして晴児の蒼白だった顔色も、肉眼で見てわかるほどの速さで徐々に赤みを取り戻していった。
このままいけば、晴児はそう遠くないうちに回復するはずだ。
今の叶然がすべきことは、晴児の側で彼女が目覚めるのを静かに待つことだけだった。
「おじいさま、ゆっくり歩いて」
遠くから、老人と若者の二つの影が、よろよろと走ってくるのが見えた。
老人は素色の服を着ており、豪雨で全身ずぶ濡れになっているにもかかわらず、身体中が血だらけで、かなり重傷を負っているようだった。
隣には叶然と同じくらいの年齢の少女が老人を支えていた。
「おじいさま、ここに橋の下があります。早く入って休みましょう」少女が言った。
「止まれ!」
叶然は橋の下から歩み出て、二人の前に立ちはだかった。
晴児は今、病状がまだ深刻で安静にする必要がある。この二人が入ってくれば、晴児の回復を妨げることになるだろう。
少女は突然現れた叶然に驚いたが、すぐに眉をひそめて叱りつけた。
「あなた誰?さっさとどきなさいよ!」
「清璇、無礼を働くな!」
老人が傍らで諭した。
「若いの、わしは林東山じゃ。今、怪我をしておる。少し雨宿りして休ませてもらえんかのう。雨が止んだらすぐに立ち去るから」
「駄目だ!」
叶然の拒絶は断固としたものだった。
「なんて無礼な!あなた、私のおじいさまが誰か知ってるの?」
林清璇は冷たく叱責した。
「私のおじいさまはこの地の雲城林家の当主よ。私たちに逆らえば、どう死ぬことになるか分からないわよ!賢明なら、さっさと退きなさい!」
「林家だろうが何家だろうが知ったことか。今日は俺がここにいる限り、お前たちはこの橋の下に入れない」
今、晴児は回復の重要な時期にあり、誰にも邪魔されるわけにはいかなかった。
「随分と傲慢ね。後で私たち林家に清算されることを恐れないの?」
林清璇は普段から林家で傲慢わがままに育てられ、彼女にこんな風に反抗する人はめったにいなかった。
「清璇、もういい。外で少し休もう」
「でもおじいさま、こいつがあなたをこんなに侮辱してるのに!」
林東山は深い意味を込めた眼差しで林清璇を見つめ、小声で言った。
「命が大事じゃ!」
彼らは追っ手に追われてここまで逃げてきたのだ。今はここで少し休んだらすぐに立ち去らなければならない。無関係なことで時間を無駄にする必要はなかった。
林清璇は仕方なく黙るしかなかった。
しかし叶然を見る目には、怒りが満ちていた。
二人はどこかに腰を下ろした。一筋の稲妻が走り、大地を照らし出した。
林東山は目を細め、遠くから近づいてくる黒い影を見て、瞳孔が急に縮んだ。
「清璇、奴らが来たぞ、急いで!」
二人が立ち上がる間もなく、数人の黒い影が幽霊のように彼らを取り囲んだ。
先頭の黒衣の男が奇妙な笑い声を上げた。
「この老いぼれ、どこまで逃げるつもりだ?」
林東山はもはや逃げられないと悟り、ため息をついた。
「わしは一生江湖を渡り歩いてきたが、まさかお前たちのような者に引っかかるとはな。もう逃げ場がないなら、さあ、かかってこい!」
傍らの叶然は眉をひそめた。
彼らの会話は既に晴児の邪魔をしていた。
「お前ら、黙れ!」
黒衣の男たちはようやく後ろにいる叶然に気づき、先頭の男が言った。
「小僧、ここはお前の関わることじゃない。さっさと消えろ!」
「黙れと言っただろう、聞こえないのか?」
叶然は冷たく言い放った。
「俺たちが誰だか知ってるのか?」
「誰だろうが知ったことか。俺の忍耐には限界がある。もう黙らなければ、容赦しないぞ」
娘のためなら、叶然は何でもする覚悟だった。
「俺は七品堂の者だ。分別があるなら今すぐ立ち去れ。さもなければお前も一緒に始末する!」
「七品堂だか何だか知らないが、俺の娘を邪魔するなら死ぬだけだ!」
「大口を叩くな、お前に何ができるか見せてもらおう!」
叶然は冷笑し、もはや言葉を費やさなかった。
修羅針を繰り出し、細い黒針が素早く黒衣の男たちに向かって飛んでいった。
一本一本の銀針が正確に彼らの喉元に突き刺さった。
彼らは唸り声一つ上げる間もなく、真っ直ぐに地面に倒れ、音もなく死んでいった。
修羅毒針、さすがにその名に恥じない威力だった。
この光景に、林東山の二人は呆然としていた。
林東山は古武術の世界に片足を突っ込んでいる身だが、この黒衣の男たちと戦うのに随分と手こずり、大きな傷を負った。
それなのに叶然は一瞬で彼らを殺してしまった。
これは……
林東山の目には深い驚きが満ちていた。
目の前のこの目立たない若者の真の実力は、いったいどれほど恐ろしいものなのか。
林清璇もこの光景を見て、先ほど叶然に反抗したことを思い出し、冷や汗が吹き出した。
「先生のご恩、老いぼれは感謝いたします!」
「黙れ、お前を助けたわけじゃない!」
叶然は振り返り、まるでささいなことをしただけのような態度だった。
彼はただ晴児のためにしたことで、この二人を救うことに興味も気持ちもなかった。
林東山の二人は、空気を読んで黙るしかなかった。
しばらく待つと、晴児が激しく咳き込み、叶然は近寄って脈を確かめた。
ほぼ正常に戻っていたので、全ての銀針を抜き取った。
晴児は目を開け、大きな瞳で周囲を見回した。
「お父さん、ここどこ?晴児、寒い…」
叶然は晴児を抱きしめ、しっかりと抱きかかえた。
「行こう、お父さんが家に連れて帰るよ」
林東山はそれを見て、よろよろと立ち上がった。
「先生、お待ちを」
「何か用か?」
「恩に報いるため、わしの林家の客分として首席の位を差し上げたい。いかがだろうか?」
「興味ない」
叶然は今、娘を連れて帰って寝かせることしか考えていなかった。
林東山は一瞬気まずい思いをした。
林家の客分は多くの人が夢見る地位であり、いつも他人が林東山に頼み込むのが常だった。
こんなに低姿勢で若者に頼むのは初めてのことだった。
さらに気まずいことに、断られてしまった。
しばらくして、林東山はカードを取り出した。
「先生がご不本意なら、これをお受け取りください。わが林家のゴールドカードです。このカードはわが林家を象徴するもの。雲城においては、先生がこのカードをお持ちであれば、どなたも林家の顔を立ててくれるでしょう」
叶然は無表情のまま言った。
「結構だ。俺、叶然は人に借りを作るのは好きじゃない」
「どうかお受け取りください!」
林東山は懇願するような口調で言った。
叶然はしばらく考えた。今、彼は雲城に人脈がない。林家のゴールドカードがあれば、確かに多くのことがやりやすくなるだろう。
「わかった。ただ恩を受けるだけではない。お前の傷を治療してやろう」
林東山は驚いた顔で言った。
「先生は医術もお詳しいのですか?」
叶然は多くを語らず、晴児を下ろして林東山の脈を診ると、すぐに眉を上げた。
この林東山、ただ者ではないようだ!