1話
雲城市病院、外は墨のように真っ暗で、激しい雨が降り注いでいた。
葉然は四、五歳の少女を抱きかかえ、よろめきながら病院の廊下に駆け込んだ。
「先生！先生！娘を助けてください！」
葉然に抱かれた少女はすでに意識を失い、顔色が青白かった。
数人の看護師らしき人々が、葉然の腕から意識を失った晴児を受け取り、救急処置室へと運び込んだ。
しばらくして、医師らしき人物が救急室から出てきて、葉然に告げた。
「お嬢さんは先天性心臓病の発作です。すぐに手術が必要です。さもないと命の危険がありますよ！」
「え...それならすぐに手術の準備をお願いします」
葉然は緊張した様子で言った。
「まずは費用をお支払いください」
医師は葉然をちらりと見て、支払い伝票を手渡した。
葉然は伝票を受け取り、そこに書かれた数字を見て、目を見開いた。
「三十万？」
「先生、何か間違いがあるんじゃないですか？どうしてこんなに高額なんですか？」
「先天性心臓病は治療が難しいものです。手術費用が高くなるのは当然でしょう」
葉然はからっぽのポケットをまさぐり、困った様子で言った。
「先生、先に手術をして、手術費は二、三日後に払うということはできませんか？」
医師は葉然を横目で見て、その態度はたちまち冷たくなった。
「病院は慈善事業ではありません。金もないのに病院に来るなんて何のつもりです？」
葉然は医師の手を掴み、懇願するように言った。
「先生、お願いです。早く娘を助けてください」
医師は嫌悪感をあらわにして手を引き抜き、冷たく言い放った。
「離せ。結局は貧乏人か。俺の時間の無駄だ！」
そして、娘の晴児はすぐに二人の看護師によって運び出され、廊下のベンチに置かれた。
看護師の一人が軽蔑するように鼻を鳴らした。
「治療費も払えないなら病院に来るな。病院で死なれたら縁起でもない！」
葉然は晴児の青白い顔を見つめ、彼女の心臓に手を当てた。鼓動はすでにとても遅くなっていた。
古い折りたたみ式の携帯電話を取り出し、妻の李娜に電話をかけた。
「夜中に何の用よ？」
李娜のいらだった声が聞こえてきた。
「妻よ、晴児が病気なんだ。お金を少し送ってもらえないか。晴児の治療のために」
葉然は李家に婿入りした身で、家の中では地位もなく、この時も小心翼翼と話した。
「あんたが路上で拾ってきたあの厄病神？さっさと死ねばいいのよ。救う価値なんてないわ。明日までに死ななかったら、あんたはもう帰ってこなくていいからね！」
言い終わると、李娜は電話を切った。
葉然は切れた電話を見つめ、歯を食いしばりながら別の番号をダイヤルした。
「小然か、こんな遅くに電話してどうしたんだい？」
電話の向こうから養母の疲れた声が聞こえてきた。
葉然は幼い頃に師匠と田舎で暮らしていたが、師匠が亡くなった後、養父母に託された。
この何年もの間、養父母が葉然を育て上げ、晴児の心臓病のことでも、老夫婦は多くのお金を出し、ほとんど彼らの退職金を使い果たしていた。
養母の声を聞いて、葉然は胸が痛んだ。
「お母さん、父さんの体調はどうですか？」
「お父さんはまた腰痛がひどくなって、半晩中痛がっていたが、やっと眠れたところだよ」
葉然は言葉に詰まり、ただこう言うしかなかった。
「お母さん、父さんをよろしく頼みます」
「小然、こんな遅くに電話してきたのは何かあったの？」
「いえ、何でもありません、お母さん」
「晴児の病気でまたお金が必要なのかい？いくら必要か言ってごらん。家にはあまりお金はないけど、私たち老夫婦でもまだ少しは借りられるよ」
「いいえ、お母さん。早く休んでください」
葉然は分かっていた。晴児の病気ですでに老夫婦の金を使い果たしていること、彼らの生活はずっと苦しく、どこからお金を借りられるわけもないことを。
葉然は電話を切り、意識を失った娘を見つめた。
彼は唇を強く噛み、この瞬間に感情が完全に崩れ落ち、涙が雨水と汗と混ざり合って流れ落ち、声を上げて泣き始めた。
晴児が拾ってきた子であることは事実だった。
しかし、この何年もの間、彼は晴児と寄り添って生きてきて、二人の絆はすでに血のつながりを超えていた。
だめだ、晴児をこのまま死なせるわけにはいかない。
葉然は携帯を取り出し、再び李娜に電話をかけたが、電源が切られていた。
義母の張雅蘭に電話をかけても、やはり電源が切られていた。
葉然は外の土砂降りを見て、歯を食いしばると、娘を抱き上げ、暗い雨の夜へと飛び出した。
娘を抱えたまま、葉然は必死に走り、すぐに家の前にたどり着いた。
ドアをノックし、葉然は必死に叫んだ。
「妻よ、開けてくれ、開けてくれ！」
十分ほど叩き続けると、ようやくドアが開き、李娜はパジャマ姿で、いらだった表情で立っていた。
「あの子はまだ死んでないの？次にこんな遅くに帰ってきたら、路上で寝るのよ！」
葉然は顔を拭い、ドサッと李娜の前にひざまずいた。
「妻よ、晴児はあなたの娘でもあるんだ。見殺しにはできないだろう！」
李娜は葉然の後ろに横たわる晴児を見て、怒りを爆発させた。
「連れてくるなって言ったでしょう！耳が聞こえないの？早く彼女を外に出しなさい。もし家の中で死んだら縁起が悪いわ！」
葉然は李娜の足にすがりつき、泣きながら懇願した。
「妻よ、見殺しにはできないよ」
「出ていけ！」
李娜は葉然を蹴り飛ばした。
「これはあなたが路上で拾ってきた野良種よ。私とは何の関係もない。今日、あなたが彼女を連れ出さないなら、彼女と一緒にこの家から出ていきなさい！」
玄関の物音を聞いた張雅蘭もこの時出てきた。
事情を理解した後、張雅蘭はすぐに怒り出した。
「葉然、この腰抜け！この野良種の娘を連れて、うちの家で食べて住んでるだけでも十分なのに、まだ私たちにお金を出させて治療させようっていうの？言っておくけど、考えないで！さっさとその野良種の娘を連れて、遠くへ行きなさい！」
「お母さん、晴児は今とても重症なんです。私たちが助けなければ、今夜を越せないかもしれません！」
「私に何の関係があるの？あなたは自分が誰だと思ってるの？あなたもこの小さな野良種も、私たちの家の犬に過ぎないのよ。犬が病気になったからって、お金を払って治療するの？」
「お母さん、お願いです、晴児を救ってください。見殺しにはできないでしょう！」
葉然は地面にひざまずいて頭を打ち付け、額はすぐに破れ、鮮血が雨水と混じって流れ落ちた。
「彼女を救う？考えないで！」
李娜は冷たい表情で言った。
「葉然、最後に聞くわ。この野良種を捨てなさい、聞こえた？」
「だめだよ、妻よ。晴児を見捨てることはできない！」
「いいわ、じゃあこの野良種と一緒に出ていきなさい！」
言い終わると、李娜は強くドアを閉めた。
葉然は必死にドアを叩いたが、中からは何の反応もなかった。
彼はドアに寄りかかり、地面に座り込み、心は灰のように冷えていた。
振り返って雨水に浸かる晴児を見て、葉然は心が刃物で刺されるような痛みを感じた。
なぜ自分はこんなに貧しいのか。本当に目の前で娘が死んでいくのを見なければならないのか？
どれだけ晴児の治療のためのお金が欲しかったことか。
でも手に入れることができない。考えられる方法はすべて試した。
本当に晴児が死ぬのを見守るしかないのか？
葉然は考えれば考えるほど苦しくなり、怒りと悲しみで一口の血を吐き出した。
目の前が徐々に暗くなっていった。
そして、一筋の幻影が虚空に漂っているのが見えた。それは威厳に満ちた老人だった。
「吾は修羅医仙なり。若者よ、汝と吾には縁がある。今、汝に医毒二双の針を授けん。華佗の医針は、人を救い、死者を生き返らせ、白骨に肉を与える。修羅の毒針は、天に代わって悪を裁ち、形なく毒を与え、解毒の術なし。」
「若者よ、汝が吾の衣鉢を継ぎ、修羅医仙の伝承を広めることを望む！」
その声は雷のように轟き、葉然の鼓膜を痛めた。
彼が何か言う前に、大量の記憶が葉然の脳裏に流れ込んだ。
これらの見知らぬ記憶を受け入れ、葉然は頭が割れるような痛みを感じた。
どれくらいの時間が経ったのか分からないが、葉然はついにすべての記憶を融合させた。
彼はゆっくりと目を開け、瞳に一筋の異彩が閃いた。
医仙の伝承を受け継いだ彼は、完全に一変していた。