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92話

やっと一息つくことができた。きれいな服に着替えて髪を整え、夕食の準備にとりかかる。

土瓶から朝に漬けておいた熟成した酔蟹を取り出すと、酒の香りが立ち込めてきた。煮汁が蟹全体にしみ込み、殻は橙赤色に輝いて、食欲をそそる。

ナイフで精巧な大根の花を彫り、飾りつけのために盛り付け、さらに数品の小鉢と熱々のスープも用意した。

蟹は性質が冷たく、食べ過ぎると胃腸に良くないので、温かい性質の料理と合わせるのが良い。

又夏は珍しく中に入って給仕せず、ドア際に立ったままぼんやりとした表情を浮かべている。何か話しかけようとしたが、又夏は私を見ていないかのように身を逸らし、うつむいて指先で遊んでいた。

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