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640話

狐婆婆の動揺した様子を目の当たりにして、秦朗は表情一つ変えなかった。

「さっき入ってきた時、私の命を助けると言ったんじゃないのか?」

「ああ、チャンスをやろう」

これは秦朗にしては珍しい慈悲だった。彼は辣婆婆のことを思い出したのだ。あの醜さこそ際立っていたが、彼に対して天のように慈しみ、地のように支えてくれた尊者のことを。

秦朗の心が温かくなった。家に老人あれば宝あるがごとし。たとえこの狐婆婆が骨の髄まで血腥い気配に満ちていようとも、もし彼女が項家に傲慢さを抑えるよう教え諭すことができれば、それもまた項家にとっての再生の功となるだろう。さもなければ、秦朗に出会った以上、死あるのみだ。

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