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793話

煙は濃いが、空は広い。

高くなるほど、海風は強くなる。

黒煙は濃く立ち上り、九階建ての高さに達すると、海風に押されて北へと大きく傾いていった。

濃煙と猛火に包まれたビル全体の中で、屋上だけが最も安全な場所だった。建物全体が焼け落ちない限り、カラヴィッチは救助を待つだけでよかったはずだ。

しかし彼には、もはや生きる理由が残されていなかった。

彼自身もそう感じていた。

表向きは、彼はヴィーナスカジノのオーナーであり、絶対的な権力者だった。

だが既に地獄へ落ちたボフスキーは知っていた。カラヴィッチはロシアの吸血コウモリ夫人の代弁者に過ぎなかった。ただ長年この地で実績を積み、組織に莫大な利益をもたらし...