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116話

「誕生日おめでとう」と最初に言ってくれたのが夕顔だったなんて思いもしなかった。胸の内には感慨がたくさん込み上げてくる。大学一年生の時の誕生日を思い出す。夕顔が58元の小さなケーキを買ってくれて、二人で大学の教室棟の裏の芝生に座り、たった一本のシンプルなろうそくを立てた。夕顔と向かい合って座り、ろうそくに火を灯すと、夕顔は私に願い事をするよう促した。

あの年、どんな願い事をしたのかはもう忘れてしまった。あるいは、時が流れ境遇が変わって、思い出したくないだけかもしれない。

スマホの画面をぼんやりと1分ほど見つめた後、その「誕生日おめでとう」という言葉に「ありがとう」とだけ返信した。

すぐに夕...