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597話

人というのは、この世界で最も追憶が得意な生き物だろう。でなければ、何千年もの歴史が伝承されることはなかっただろう。

絶え間ない回顧と総括、それこそが人類が進歩し続けられる重要な能力のはずだ。

しかし、男女が二人きりになって感情面の思い出を語り合う時だけは、明らかに二人の知能指数が下がってしまう。

そんな時、温かい感情が発酵し、追憶する者の思考を鈍らせ、やがてその雰囲気に溺れ、楽しげに時間を忘れてしまうのだ。

尤可児は秦越の話の流れに乗って、彼が海扒大酒店で彦高の酒の陣を破ってくれた時のことを語り始めた。

尤可児はどうやら意図的に秦越の思考を誘導し、あの酒...