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106話

葉少東は深く息を吸い込み、その瞳には滅多に見せない迷いが宿っていた。彼はゆっくりと手を伸ばし、陸儼を後ろから抱きしめた。だが、その親密な体勢に陸儼が明らかに震えたのを感じた。

その反応に葉少東は眉をひそめる。彼は顎を陸儼の肩に乗せ、この男の匂いを深く、ほとんど貪るように嗅ぎ込んだ。しばらくして、苦渋に満ちた決断が彼の目の奥を一瞬で駆け抜け、それまでの全ての葛藤と躊躇を断ち切った!──

「帰れ」

彼の口から漏れた言葉は、湯気に霞む浴室の中で澄み切って響いた。まるで数え切れない葛藤と執着が、この「帰れ」という一言を口にした瞬間に、すべて断ち切られたかのように。

……しかし長い間、浴室は異様...