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590話

彼女の目尻に刻まれた細かな皺がなければ、「おばさん」と呼ぶのも忍びないほどだった。

「あの、こんにちは。彼のお母さん、ですか?」

私は意図的に「お母さん」の前で一瞬間を置いた。もし間違っていたら、訂正する機会を与えるためだ。しかし彼女は、ただ涙で潤んだ目で私を見つめるだけだった。

「あなたが私の息子を助けてくれたの?」

彼女は慌てて立ち上がり、何度も頭を下げて感謝の言葉を述べた。私は戸惑いのあまり、しばらく反応できず、ようやく我に返って彼女を支え起こした。

「ただの些細なことですよ。そんなに気を遣わないでください。ホテルで彼が倒れるのを見かけて、病院に連れてきただけです。医療費はもう支払ってあ...