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1125話

「違うよ」

よく見れば、この男は、蔡明の面影が少しある。

「蔡明だ。自分を隠して、僕らがそばでずっと右往左往するのを眺めていたんだ!」

この蔡明という男も、どうやら油断ならない相手らしい。すぐそばで僕らの様子を見て密かに笑っていたのに、一切物音を立てなかった。船の乗組員たちもまるで見物人のように真剣に事態を見守り、一切の疑いを持たせなかったのだ。

「その船は?」

「もう国境を出てしまった。追いつけない!」

「税関には味方がいるんじゃないのか?」

こんなに堂々と出国させて、誰も止めなかったのか?

「事故があったんだ。その日税関にいた者全員が薬を盛られて、ずっと下痢に苦しんでいた。だから子供たちが...