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172話

「あの方の人は私のものだ、命も……同じく」

そして、錦は遠くへ走り去る謝雲を見つめながら、目に宿る複雑な感情がますます濃くなっていった。ついに、彼は歯を食いしばると、かがみ込んで車に乗り込みエンジンをかけた。黒く光る車体は朧げな夜の闇の中、狭い公道を素早く駆け上がっていった。今や二人のうち誰一人として、引き返す道はない。錦にできることといえば、一刻も早く謝氏に戻って救援を呼ぶことだけだった!

謝雲が再びあの崩れかけた廃工場に駆け込んだとき、一階の元々ひび割れていた壁の真ん中にある黒ずんだ隙間は更に大きくなっていた。壁の塗装が大きく剥がれ落ち、床に積もった厚い埃を巻き上げ、上の階から漂ってくる...