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589話

本来、ピルロは助走を一切取らなかった。

彼の性格によく合っていたので、周りも特に気にも留めなかった。

しかし、ボールが蹴り上げられた瞬間、何かが違うと皆が感じた。ボールの速度は速くないが、その軌道が極めて精妙だった。空中でウォールを完璧に越え、まるで一枚の軽やかな落ち葉のように、ゴール隅へと滑り落ちていく。ウォールがその瞬間にジャンプしたため、ゴールキーパーは反応する間もなく、ボールは既に彼の側に現れていた。

右上隅!

もし定規で測ってみれば、このときのボールは、まさにゴールのフレームにぴったりと沿っていることがわかるだろう。衝突はなかったが、同時に、隙間もなかった。

そし...