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第30話

オースティンが私を診療所に連れていく間、私は顔をしかめた。唇が痛みを感じていた。でも痛みにもかかわらず、こっそり微笑まずにはいられなかった。オースティンの心配そうな表情が愛らしかった。

こんな小さな切り傷のことで彼が私を心配するなんて、思ってもみなかった。

「もうすぐだ」と彼は言った。彼の声はちょっと冷たかったけど、それが私に喜びをもたらした。怪我した唇に隠れて、笑みが広がった。

これが好き。いや、大好きだ。彼が心配しているとき、目尻にできる皺が大好きだ。

診療所に入ると、中は看護師のステーションが空で、机の上には「トラヴィス先生は午前中不在です」という張り紙があった。

彼の目が細く...