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チャプター 80

ディミトリは宮殿の廊下を歩いていた。足取りは軽く、表情はいつになく穏やかだった。

公爵邸での騒動――毒殺未遂、そして恐怖の日々から一ヶ月が経っていた。時は流れ、最悪の事態は過ぎ去ったものの、ディミトリは決して忘れてはいなかった。

ローナンの回復は順調だった。二人の生活は、ゆっくりと、ほとんど……普通と呼べるものに落ち着きつつあった。少なくとも、可能な限りは。宮廷も毒殺未遂の噂をしなくなり、ローナン自身もここ数週間は緊張が和らいでいるように見えた。

だが、ディミトリは?

ディミトリは、まだ覚えていた。

ローナンの部屋へ向かい、彼に会い、からかい、気分が向けばキスでも奪ってや...