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第二十八章

その時間の医務室は静まり返っていた。消毒液の匂いもなければ、怪我をした生徒の姿もない。ただ、魔法仕掛けの換気扇がかすかに唸る音と、曇りガラスを通して差し込む陽光が満ちているだけだった。

アラリックは低い簡易ベッドの端に腰掛け、袖をまくり、腕を伸ばしていた。

セイレンは黙々と作業を進めていた。その指つきは精密で、揺らぎがない。彼は針を使わなかった――ただ水晶のピンをアラリックの手首の内側に押し当て、呪文を一つ呟いただけだ。一滴の血がふわりと浮き上がり、空中に静止した。銀色の核を宿し、淡い赤色の光を放っている。

アラリックはそれが浮かんでいるのを眺めていた。

セイレンは何も言わなかった。彼は小瓶の...