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第107話あそこには戻れない

第百七章:もうあそこへは戻れない

ネルソン

「ネルソン、すまない」ジェイソンはそう言って、俺の腕を片手でさすった。

二人とも親切だったが、なぜだか分からない。俺はこんな親切を受ける資格なんてない。ご主人様が俺を浴室に残して出ていくとすぐに、俺は静かに立ち上がってドアに鍵をかけた。それから刃物を取り出し、浴槽に戻った。何もかもに疲れ果てていたし、結局また台無しになるのなら、新しい人生を築こうと戦う意味なんてあるのだろうか。人生で最悪の二つの屈辱の記憶が心によみがえり、互いに重なり合った。どちらの時も俺はひどく間抜けで何も分かっておらず、何が起きているのかほとんど認識できていなかった。だが、...