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84話

トム

サラのアパートの前に車を停め、興奮と緊張で胸が高鳴っていた。助手席には途中で買った花束が置いてある。先日のデートをキャンセルしたことへの埋め合わせになればと思って選んだ色鮮やかなバラとユリの花束だ。

「よし、トム」とエンジンを切りながら独り言を言った。「魅力全開でいくぞ」

花束を手に取り、車から降りると、冷たい夕方の空気を深く吸い込んだ。サラのドアまでの道のりは一マイルにも感じられ、一歩一歩が私の夢に出てくるあの魅惑的な瞳といたずらっぽい笑顔に近づいていくようだった。

気がつけば、彼女のドアの前に立っていた。ベルを鳴らそうと手を上げたが、躊躇した。キャンセルしたデートのこ...