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第12章

坂井晴美は藤原恭介が水原美佳の手首を掴み、自分を見捨てる場面を目の当たりにした。

落下と無重力の感覚が鮮明に感じられ、心は一瞬にして絶望で満たされた。

藤原恭介は一度も彼女を選んだことがなかった。たとえ一度でも、たとえ彼女も泥沼に深く沈んでいても。

「晴美ちゃん!」水原美佳が偽善的に呼びかけた。

坂井晴美は階段の曲がり角で衝突して止まり、体と心の痛みで窒息しそうだった。

彼女はゆっくりと顔を上げ、藤原恭介と水原美佳が見下ろしているのを見た。

窮屈さ、絶望、苦痛。どれも今の彼女の気持ちを表すには不十分だった。

階段は高くなかった。死ぬほどの怪我はしないだろう。しか...