第6章 この小娘はなんと神田家のお嬢様！
この子は何を言っているんだ？！
彼女は田中宏教授がどんな人か知っているのか？あれは首脳陣の健康診断を行う最高峰の医師だぞ！
彼女ごときが連絡できる相手なのか？
看護師は冷笑した。「もし田中教授に連絡できたら、私があなたに頭を下げて謝りますよ」
「最近の子どもたちは本当に...うちの息子だってウルトラマンだって言ってるくらいだし」
「もう話すのはやめなさい。早く彼女を外に出して、警察署で反省させれば自分の分をわきまえるでしょう」
川島凛は皆の前で携帯を取り出し、ある電話番号を押した。
傍らの医師が嘲笑した。
「適当に番号を押しただけでしょ。せめて偽装するなら、あらかじめ田中宏という名前を登録しておくべきじゃない？」
川島凛は言葉に詰まった。
別に重要な人物でもないのに、なぜ彼の電話を登録する必要があるのだろう？
この番号を覚えているのは、彼があまりにも何度も電話をかけてきたからだ。
相手はすぐに電話に出た。
川島凛はスピーカーフォンにした。
「私は川島凛です。あなたが処方した薬に問題があります」
向こうから元気のいい男性の声が聞こえた。「やっと研究室に入ることを決めたのか？いや、今なんて言った？」
「私はK市の橋本病院にいます。あなたが高血圧性心臓病の患者に処方した薬の中に甘草錠が入っています」
田中宏は額を叩いた。「そうだ、確かに患者に甘草錠を処方したが、一度だけだ。用量に間違いはない、厳密にコントロールしている」
「あなたは五回処方しました。患者はすでに亡くなっています」
「あり得ない！私の処方箋を見れば分かる、私のサインがあるのは一回だけだ。8号室の患者の血圧では過剰な甘草錠は耐えられない！」
川島凛は淡々と言った。「つまり、あなたは間違えたということですね」
田中宏は電話の向こうで急いで言った。「わかった、私が間違えた。君が研究室に来てくれるなら...」
「あなたの研究室に将来性はありません。行きません」
そう言って、彼女はさらに尋ねた。「あなたは誰ですか？」
向こうは明らかに戸惑っていた。「田中宏だよ！」
彼が自分の名前を言うと、川島凛は電話を切った。
向こうの田中宏は呆然と電話を握りしめていた。
ちょっと待て！
8号室の薬がなぜ間違っている？しかも患者が亡くなった！
すぐにK市の橋本病院に行かなければ、大問題になる。
ついでに、あの子に会えるかもしれない！
病院では、電話を切った川島凛がわずかに顎を上げ、看護師を見つめた。
「あなた、私に土下座するって言ったわね？」
本当に田中宏教授の声だった！
しかも、彼は目の前の少女に自分の研究室への参加をしきりに誘っていた！
医療スタッフ全員が唖然とした。
これは医学界の巨匠が、自分が薬を間違えたと認めたのだ！
これが広まれば、医学界全体が震撼するだろう。
看護師は面目を失い、喉を詰まらせた。「田中教授が認めたとしても、あなたが誰の子どもか分からないわ。見るからに礼儀知らずね！」
今どきの人は、こんなに強情なのか？
川島凛はその場に立ち、冷たい視線で神田おじいさんの目を見つめた。
彼はただそこに立っているだけで威厳があり、人々は直視できないほどだった。
長年の上流階級の気質が神田おじいさんにはあり、彼の一瞥だけで貴族の重みを感じさせた。
川島凛は彼の視線に応え、手で指さした。
「この方の家の子です」
「……」
この少女は、自分が神田長官の家の子どもだと言っている！
本当に笑わせる！
彼女は確信していた。先ほど電話で話しているのを聞いたとき、少女は神田という姓ではなかった。
どうして長官家の子どもであるはずがない。
「お嬢さん、食事は適当でもいいけど、言葉は適当に言っちゃだめよ」
……
川島凛の表情は淡々として、水墨画のように波一つ立てずに穏やかだった。
目の前の神田おじいさんと視線を合わせる。
その一瞬、神田おじいさんは少し恍惚とした！
川島凛を見た最初の瞬間から、この子が自分の孫娘であることを彼は知っていた。このような眼差しは、家のあの悪ガキたちとそっくりだった。
川島凛は彼の息子の嫁が若いころによく似ていて、目元には彼がよく知っている影がかすかに残っていた。
より静かで内向的で、優雅で落ち着いていて、あの悪ガキたちとは比べものにならない！
神田おじいさんは見れば見るほど満足だった。
医療スタッフはまだ川島凛を追い出そうと騒いでいた。
「長官、この子はきっとスパイです、あなたを害そうとしています！」
「絶対に問題があります。すぐに警備員に連絡します」
神田おじいさんは手を上げて制すると、皆は即座に静まり返った。
彼は川島凛に手招きした。
「おじいさんと呼びなさい」
川島凛は素直に従い、おじいさんの側に歩み寄った。
「おじいさん」
「戻ってきてくれて良かった」
神田おじいさんの視線が医療スタッフに向けられると、彼の笑顔はすぐに消えた。
「私、神田礼の孫娘に、お前たちが口を挟むとは？誰が彼女を逮捕すると言った？お前たちこそスパイだ！」
医療スタッフは、川島凛が本当に神田おじいさんの孫娘だったとは思わなかった！
つまり彼らは彼女のおじいさんの前で、神田家のしつけが悪いと言い、神田家のお嬢様をいじめていたのだ？
そう思うと、皆の足はガクガクと震えた！
「神田長官、そんなつもりはありませんでした、お嬢様だとは知らなかったのです...」
神田おじいさんは手を振った。「この件については、後で話があるだろう！」
皆はこの言葉の意味を理解した。
全員が落胆し、神田おじいさんの後ろにいる川島凛を見つめた。
おばさんは地面に座り、老いた顔に涙を浮かべ、感謝の眼差しで川島凛を見つめた。
川島凛は彼女を見て、冷静に言った。「誰かがあなたを助けます、安心してください」
おばさんは力強くうなずき、顔を覆って泣き崩れた。自分は間違っていなかったと分かったのだ！
神田おじいさんは振り返り、手にした処方箋を川島凛に渡した。「孫娘よ、おじいさんのために見てくれ。この処方箋に不適切な薬はないか？」
川島凛は見逃さなかった。処方箋を受け取った瞬間、ある医師の表情が緊張したのを。
彼女と口論した看護師も、目立たないように一歩後ずさりした。
川島凛は眉を上げた。「おじいさん、あなたを殺そうとする人は多いわね。人望がないみたいね」
「……」
これほど多くの年月、彼にこんな風に話す人はいなかった！
もし家のあの悪ガキたちなら、とっくに平手打ちを食らっているところだ！
しかし孫娘は別だ、孫娘は叩けない。
神田おじいさんは我慢し、言い返した。「君の人望もたいしたことないようだな」
川島凛は心の中で、このおじいさんは心臓病だけでなく、頭にも少し問題があるのかもしれないと思った。
神田おじいさんの病室は個室で、最高水準の設備を備え、薬は何重もの確認を経て、最高クラスの医療チームによるケアを受けていた。
このチームは、日本の多くの重要人材も担当していた。
もし神田おじいさんのチームに問題があれば、他の場所も調査する必要がある。
神田おじいさんはわざと尋ねた。「孫娘よ、どう対処すべきだと思う？」
川島凛は顎をわずかに上げ、淡々と言った。「彼らが言ったとおり、スパイでしょう。逮捕すればいいわ」
皆は足が震えるほど怖くなった。
神田おじいさんはうなずき、視線は冷たくなった。
「うむ、君の言う通りにしよう」
……
一群の医療スタッフが調査のため連行され、騒ぎを起こしていたおばさんは希望が見えて、素直に警察について行った。
川島凛の携帯が光り、暗号化された番号が点滅した。
「おじいさん、電話に出てきます」
神田おじいさんは若者には秘密があることを理解し、彼女を制限しなかった。
「行きなさい」
川島凛はうなずき、病院の廊下に出て受話ボタンを押した。
彼女の携帯は彼女自身が改造したもので、盗聴の心配はなかった。
太平洋の小島からの電話は格別に明瞭だった。
「姉御、ダークウェブで新しい依頼が来ました。あなたの指名で、報酬は1億です」
この金額なら、彼女の部下が興奮するのも無理はない。
川島凛は声を落ち着かせ、目を伏せて言った。「ターゲットは？」
「日本の大将、神田礼。現在K市橋本病院にいます」