




第3章
「絵里!何してるの!早く座りなさい!」
同僚は慌てて小林絵里の袖を引っ張り、坂田和也を一瞥した。
あれは社長だ。
初めて会社に来た日に、小林絵里がこんなに唐突に坂田社長に接するなんて、命知らずだ。
幸いにも坂田和也はこの騒ぎに気づかず、多くの幹部に囲まれながら、長い足を伸ばして社長専用エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターのドアが閉まるまで。
小林絵里はその愛する顔がエレベーターの後ろに完全に消えるのを見つめていたが、自分に一瞥もくれなかった。
彼女は我に返り、重く息を吐いた。
やはり、彼は本当に彼女を気にしていなかったのだ。
この一年間の付き合いと愛情は、結局無駄だったのか!
同僚は彼女の失意の様子を見て、何かを思い出したように小声で言った。「絵里、もしかして坂田社長を知ってるの?」
「普段はそんなに無謀な人じゃないのに、さっきの表情はまるで坂田社長が裏切ったかのようだった」
小林絵里は苦笑いを浮かべた。
無関係な他人でさえ、彼女がどれだけ傷ついたかを見抜けるのに。
彼は全く無関心でいられる。
坂田和也、なんて冷酷な心だ!
その時、皮肉な声が聞こえてきた。
「普段はクールな顔をしているくせに、金持ちを見るとすぐに飛びつく。でも相手は全然相手にしてくれないなんて、笑っちゃうよね」
「うちの坂田社長は見抜く達人だから、こんな計算高い女には引っかからないよ」
目を上げると、普段から小林絵里と対立している同僚たちだった。
一連の嘲笑の中に、陰湿な声が混じっていた。
「みんなも諦めなよ、小林絵里が手に入らないなら、君たちも同じだよ。坂田社長はもうすでに彼女がいるなんだから」
この言葉に、全員が声の主に目を向けた。
ジェフ。
会社で最も情報通の同僚。
彼は新しく塗ったバービーピンクのネイルに息を吹きかけ、みんなにウィンクした。
会社の雰囲気が一瞬で凍りついた。
ジェフは会社の情報通で、彼の口から出る話はほぼ間違いない。
次の瞬間、オフィスはため息の嵐に包まれた。
「坂田社長に彼女がいるの?どこのお嬢様だろう?」
「やっぱり王子がシンデレラを愛する話はおとぎ話だけだね」
小林絵里はその言葉を聞いて、拳を握りしめた。
心の中にかすかな期待が湧き上がった。
もしかして……
坂田和也との結婚のことがバレたのか?
ジェフが続けて話す前に、部長が冷たい顔でやってきた。
「今は仕事中だぞ、みんな仕事をしたくないのか?」
みんなは一斉に黙り込み、デスクに戻って大人しくなった。
部長は視線を戻し、一束の書類を小林絵里の前に投げた。
「坂田社長が君にオフィスに来るように言っている。このプロジェクト書を提出しなさい」
小林絵里はプロジェクト書を手に取り、立ち上がった。「わかりました、部長」
立ち上がろうとした時、部長が突然彼女を呼び止め、警告の色を含んだ声で言った。
「自分の分をわきまえろ、坂田社長に変な気を起こすな」
小林絵里は微かに眉をひそめた。
部長は彼女を軽蔑するように一瞥した。「どんな幸運に恵まれたのか知らないが、坂田社長と単独で会えるなんて」
小林絵里は唇を引き締め、結局何も言わずに書類を持って社員エレベーターに乗った。
彼女が去ると、オフィスは新たな議論の嵐に包まれた。
先ほど皮肉を言っていた同僚が勇気を出して尋ねた。「部長、坂田社長が本当に彼女みたいな貧乏人を気に入ったんじゃないでしょうか?顔以外に何があるんですか?」
部長は意味深な笑みを浮かべた。
「プロジェクトに問題があって、坂田社長が責任を追及しているんだ」
その言葉に、みんなは互いに目を合わせ、密かに唇を曲げた。
どうやら、小林絵里は運が悪いようだ。

