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第52章

「はい」

山切執事は即座に返事をした。

若様は普段冷淡に見えるが、彼は心の中で分かっていた。この世で二人の坊ちゃんを最も愛しているのは、藤原信也だということを。

父の愛は山のようだと言う人もいる。

彼はむしろ、父の愛は海のようだと言いたい。

大海のように測り知れず、また大海のようにすべてを包み込む。

二階で、藤原翔太はベランダに座り、瞳には霞がかかったような水気が集まっていた。

お腹がとてもとても空いていて、こっそりカバンからビスケットを取り出して二口ほど齧った。

ところが不意に喉に詰まらせてしまい、涙がそのまま何の前触れもなく零れ落ちた。

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