第4章
「おじいさま」
慕星は彼の言葉を遮った。
彼女は顔を向け、視線を顧胤衡に落とした。
確かに見た目はいいけど、頭の出来はあまり良くないようだ。
彼女は微笑みながらお茶を注ぎ、顧胤衡に差し出した。その一挙手一投足には言葉では表せない落ち着いた雰囲気が漂っていた。
「顧さんの言動は確かに鼻につきますけど、少なくとも一つだけ良いところがあります。それは自分のことをわかっているということ。私たち二人は確かに釣り合いません。あなたは私には遠く及ばないのですから」
顧胤衡の表情は一瞬で凍りついた。目の前で厚かましい発言をする女性を信じられないという顔で見つめた。
この女は頭がおかしいのか？
自分が彼女に釣り合わないだなんて言うとは！
いつもの冷たく厳かな表情が今にも崩れそうだった。
しばらくして、彼はようやく歯を食いしばりながらそのお茶を受け取り、冷笑して席に着いた。
孫が痛い目に遭ったのを見て、顧老爺子は怒るどころか、こっそり笑いを漏らしていた。
このバカ息子め、毎日ポーカーフェイスで誰に見せつけているつもりだ。今度はいい目に遭ったな。小星星にこっぴどくやられたじゃないか！
笑みを引っ込め、顧老爺子は真面目な顔に戻り、眉間には厳しさが浮かんだ。
「小星星、爺さんが年寄りの強みを使うと思うなよ。あの時、爺さんがお前を助けた時、恩返しすると言ったよな。今、爺さんにはたった一つの願いがある。それは阿衡が家庭を持つのを見ることだ。そうすれば、この老いぼれも安心して目を閉じられるんだ」
「爺さんの顔を立ててくれ。阿衡としばらく付き合ってみてくれないか。合わないと思ったら、爺さんも無理強いはしない」
慕星は黙り込んだ。
顧老人がここまで言うなら、これ以上断るのは逆に失礼になってしまう。
彼女は長い間考え込んだ後、頷いた。「一ヶ月を期限にします。もし私たちがお互いに何も感じなければ、おじいさまにはもう無理強いしないでいただきたいです」
顧胤衡は不機嫌そうに眉をひそめた。
「おじいちゃん、僕は反対だ。僕はもう...」
次の瞬間、顧老爺子の鋭い視線が彼に注がれた。
「顧胤衡、お前が今どうして毎日あんな実用的でない趣味を研究できるか忘れたのか？それもこの老いぼれがお前の親の間に立って仲介したからだろう？もしまだ俺を爺さんと思うなら、反抗するんじゃない」
一言で顧胤衡のすべての反論を押し戻した。
彼は拳を握りしめ、最終的には頷くしかなかった。「わかった、一ヶ月だけだ」
顧老爺子はようやく再び笑顔になった。「そうだ！爺さんがお前と小星星を一緒にさせても害はないだろう！いずれ彼女の良さがわかるさ」
主な話が終わったのを見て、慕星も立ち上がった。
「おじいさま、もう遅いので、帰らなければなりません」
顧老爺子は不満そうに口をとがらせた。「あの慕家の連中はみんなお前にひどいことをするのに、なぜまだ自分から不愉快な思いをしに帰るんだ？うちに住んだらどうだ？どうせ数日後には婚約パーティーを開くんだから、どこに住んでも同じだろう」
顧胤衡のこめかみの血管が脈打ったが、彼が断る前に、慕星が先に口を開いた。
「結構です、おじいさま。帰って処理しなければならないことがあります。また今度お伺いしますね」
慕星を引き止められないと知った顧老爺子は、涙ぐみながら頷くしかなかった。別れ際に顧胤衡を一蹴りして、慕星を一緒に見送るよう命じた。
マイバッハが車の流れの中を疾走し、慕星は窓辺に寄りかかり、徐々に暗くなる空を見つめ、何を考えているのかわからなかった。
顧胤衡がふと一瞥すると、思わず目が離せなくなった。
否定できない、この女性は美しい。
しかも並外れた美しさだ。
カラスの羽のように濃い睫毛、魅惑的な瞳、上質な白玉のように滑らかな肌、花びらのような唇は化粧をせずとも妖艶な赤色を帯びている。
しばらくして、顧胤衡は自分が見とれていることに気づき、悔しげに顔を背けた。
どれほど美しくても、所詮は凡庸な女にすぎない。あの夜の彼女とは、決して比べられるものではない。
今は一ヶ月の期限が来るのを待って、おじいちゃんに本当の気持ちを打ち明け、心には既に別の人がいることを告げるだけだ。
そしてこの女性とは、二度と会うことはないだろう！
道中は静かだった。
車が慕家の豪邸の前に静かに停まるまで、顧胤衡はようやく恩着せがましく二言だけ発した。
「着いたぞ」
慕星は「ええ」と答え、礼を言って車を降り、立ち去ろうとした。
ちょうど背を向けたとき、背後から男の冷たい声が響いた。
「この一ヶ月、俺たちはおじいちゃんの前で芝居をするだけで、それ以外の時は、お前が俺を知らないふりをしてくれることを望む。最初に言っておくが、俺には心に決めた人がいる。俺たちの間に可能性はない」
慕星は足を止め、振り返って意地悪そうな笑みを浮かべた。
「安心して、私もあなたには何の興味もないわ」
言い終えると、彼女は振り向いて階段を上がった。
車の窓の中には、顔を青くして彼女の背中を睨みつける顧胤衡だけが残された。
次の瞬間、電話の着信音が鳴った。
彼は不機嫌そうに電話に出た。「用件は手短に！」
電話の向こうからは軽薄な舌打ちの音が聞こえた。「ツッ、そんなに怒ってどうしたんだよ！誰にまた怒ってるんだ？我らが無敵の顧様よ？」
「林江峪、最近暇なら、いくつかの協力関係を解消して、お前を忙しくさせてやってもいいぞ」
顧胤衡は冷笑した。
向こうの林江峪はすぐに許しを請うた。「わかったわかった、冗談を言っただけじゃないか！そんなにマジになるなよ。今日電話したのは、超ビッグニュースを伝えるためなんだ！」
「お前がずっと探していた棋聖と、ついに連絡が取れたぞ！」
「本当か？」顧胤衡の表情は一気に晴れやかになった。
彼は昔から囲碁に夢中で、幼い頃から対等な相手を見つけることができなかった。三年前、ある大会で棋聖と対局し、互いに譲らぬ戦いを繰り広げた。
もし最後に事故がなければ、この相手を三年も探し続けることはなかっただろう！
林江峪の声は得意げだった。「でも早く喜ぶなよ。俺が連絡取れたのは棋聖のアシスタントだけで、本人にはまだ会う資格がない。だからこの招待は伝えることしかできないし、完全に成功するとは保証できないぞ」
顧胤衡はそれを気にしていなかった。
「構わない、俺の招待を伝えてくれればいい。彼女は俺の身分を知っている。断らないはずだ」
電話を切った後、顧胤衡の顔から暗い影が消え、鐘叔に車を出すよう指示した。
しかし鐘叔は「あれ？」と声を上げ、後部座席の女性用バッグを指さした。
「あれは慕お嬢様のものではありませんか？忘れて行かれたのでは？」
顧胤衡は顔を曇らせた。
この抜け作の女め！
——
一方、慕星が家のドアを開けると、ソファに表情の異なる三人が座っていた。
慕情はいつもの通り、目を赤くして、可哀想そうな様子だった。
慕星を見るなり、わざとらしく涙を拭った。
「お姉さん、本当に分別がないわ！慕家がどれほど小さな家でも、あなたの衣食住を絶やしたことはないのに、なぜお金のためにこんな愚かなことをして、両親の顔に泥を塗るの？」
慕父と慕母は、憤りの表情を浮かべていた。
慕星は戸惑った。「何を言っているの？」
慕星が認めないのを見て、慕母は彼女が知らんぷりをしていると思い、怒って前に進み、平手打ちを食らわせようとした——
「逆らう娘め！今になっても強情を張って認めないつもりか！」