第3章
ほんの一瞬だけ固まったものの、星野星はすぐに普段通りの様子に戻った。
後ろから中村さんが恭しく車のドアを開け、彼女を支えながら乗車させた。
その様子を見て、後部座席の男は喉から冷ややかな笑いを漏らした。
「星野さんは面子が大きいですね。中村さんに頭を下げさせるなんて。彼がどういう人か知っていますか？」
星野星は席に着くと、男の顔に視線を向け、少し困惑の色を浮かべた。
「もちろん知っていますよ。今は佐藤家の運転手でしょう？」
かつて、中村さんは星野星が惜しみながらも佐藤に譲った人材だった。
海外にいた頃、中村さんは星野星が最初に育てた人材の中で最も優れた一人だった。
武力でも学術面でも、あるいは金融や財務においても、中村さんは何でもこなし、星野星の部下の中で最も頼りになる助手だった。
ただ、彼女が何者かに襲われ、佐藤に救われた後、感謝の気持ちを表すために、中村さんを佐藤の下で働かせることにしたのだ。普段は中村さんの真の身分を公表できないため、運転手という立場で佐藤の側にいることになった。
中村さんは確かに彼女の期待を裏切らなかった。
わずか三年で、佐藤家が日本の五百強企業の中で足場を固め、さらには上位にランクインするのを助けたのだ。
中村さんのことを誰よりも知っているのは、自分自身だと星野星は自負していた。佐藤でさえ彼女ほど知らないはずだ。
この佐藤衡が突然そんなことを聞いてくるのは、一体どういう意味だろう？
佐藤衡は嘲るように口元を歪めた。
この愚かな女は、中村さんを普通の運転手だと思っているのか？
だから高慢にも中村さんにドアを開けさせることができるのだろう。
身の程知らずめ！
「中村さんの身分を知ったら、後悔することにならないといいですね」
冷たくそう言い捨てると、佐藤衡は顔を横に向け、冷たい褐色の瞳で窓の外を見つめ、星野星にこれ以上視線を向けようとはしなかった。
初対面でこんなに気取った態度とは、実に俗物極まりない！
頭の中に、あの夜の女性の姿が不意に浮かんだ。
佐藤衡は無意識に喉仏を上下させ、指先にはまだあの女性の滑らかで繊細な肌触りが残っているような気がした。
しかし、隣からふと懐かしい香りが漂ってきた。
佐藤衡は顔を向け、星野星を見た。
先ほどは嫌悪感に気を取られていたが、今よく見ると、老人に絶賛されているこの星野星は、あの夜の女性と体つきが少し似ているようにも思える。
その考えはすぐに消え、佐藤衡は自分が馬鹿げていると感じた。
彼は本当に狂ったのだろう。目の前のこの権力にすがり、虎の威を借る狐のような女が、昨夜の彼女と似ているなどと思うなんて。
天と地ほどの違いがあるというのに。
しかし...彼が立ち去る前に残していった名刺、彼女は見つけただろうか。
鼻先に漂う香りはあの夜の香りに似ていて、佐藤衡の心の中に言葉では言い表せない動揺を引き起こしていた。
彼は目を閉じて顔を横に向け、もう星野星を見たくないという素振りを見せた。
冷遇されても、星野星はまったく気にした様子もなく、窓の外を流れていく景色を見ながら、思索に耽っていた。
30分後、車は古風で豪華な別荘の門前に停まった。
車を降りると、白髪の老人がすぐに熱心に迎えに来た。
「おやおや、私の星ちゃん、ついに来たね！」
星野星が返事をする間もなく、老人は親しげに彼女の手を取り、一気に大きな別荘の中へと引っ張っていった。
後ろに取り残された佐藤衡は、呆然と立ち尽くすばかりだった。
佐藤衡：「……」
一体誰が本当の孫なんだ？
別荘に入ると、佐藤お爺さんはさらに家の珍品珍宝を総動員してもてなそうとした。
「中村さん！私の秘蔵の都匀毛尖茶を持ってきなさい！」
「ついでにオークションで買った上等の骨董茶器セットも出しなさい。あの茶器で淹れるとお茶が一番香るんだ！」
「それから……」
星野星は彼が家中の宝物を全部出してしまうのではないかと心配になり、急いで制止した。
「おじいさん、待って待って、そんなに気を遣わないでください。私たちはもう古い知り合いですから」
佐藤お爺さんはようやく興奮した気持ちを落ち着かせ、星野星の手を握りしめ、見れば見るほど嬉しそうだった。
「何年も会わなかったが、お前はますます美しくなったな。初めて海外で会った時は、痩せこけて小さくて、泥んこの猿みたいだったのに、本当に女は大きく変わるものだ！」
星野星の黒歴史を語り始めると、佐藤お爺さんはとめどなく話し続ける勢いだった。
星野星は素早く制止した。「おじいさん！それはもう昔の話です。そんな話はやめましょう。今日私を呼んだのは、何かご用件があるのですか？」
にやにやと笑いながら、佐藤お爺さんは顔を曇らせて入ってきた佐藤衡を見て、わざとため息をついた。
「そりゃあ、この高齢独身の孫のためさ」
「星ちゃんよ！私はお前が育つのを見てきたようなものだ。お前の家族はバカばかりで、お前を大事にしなかった。それに目が悪い水原宇一は、魚の目を真珠と間違えるような男だ。彼らはお前にふさわしくない！私の孫を考えてみないか？容姿端麗、学識豊か、財産もあり、男の道を守る、滅多にいない良い男だぞ！」
売り込まれている佐藤衡の顔色はさらに暗くなり、彼は大股で前に出て、不機嫌な口調で言った。
「おじいちゃん、変なことを言わないでください」
佐藤お爺さんは不満そうに目を回した。「お前がもっと早く嫁を連れてきて、ひ孫かひ孫娘を産んでくれれば、私がお前の結婚問題でこんなに心配する必要はないんだぞ！犬が呂洞賓を噛むようなもので、良かれと思ってやっているのに！」
そう言うと、彼はまた星野星の手を取り、慈愛に満ちた表情で言った。「私たちの星ちゃんはこんなに美しくて、頭も良い。もしお前に嫁いでくれるなら、お前は線香を上げて感謝すべきだよ！」
佐藤衡は冷ややかに笑い、星野星を見て、目に侮蔑の色を浮かべた。
「言わせていただければ、星野さんと私の間には大きな隔たりがあり、良い相性とは言えません」
それを聞いて、星野星は眉を上げ、彼を見た。
この男は、随分と大口を叩くものだ。
しかし、間違ったことは言っていない。
星野星がまだ何も言わないうちに、佐藤お爺さんは怒って髭を震わせ、目を見開いた。「この馬鹿者！お前も星野家のあの一族のように盲目になるつもりか？星ちゃんが実は……」