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第27章

「薄田奥さん。どうぞお掛けください」堀川弁護士は非常に丁寧に手を差し伸べながら、篠原心海と後ろにいる村上弁護士に言った。その声は礼儀正しいものの、疑いようのない距離感が漂っていた。まるで煙のない戦いの始まりを告げるかのようだった。

篠原心海は薄田グループで堀川隆弁護士を何度も見かけていた。毎回、堀川弁護士は足早に歩き、集中した冷たい眼差しで、まるで周囲の何もかもが彼の目に入らないかのようだった。そして篠原心海も、ただ黙って彼が会議室やオフィスの間を行き来する姿を見ていただけで、交わることはなかった。篠原心海が薄田蒼と結婚した際、婚前契約書を交わしていなかったため、薄田グループの法務チームに...