




第2章
藤原夜の躊躇いのない返事に、川崎美香はしばし呆然としてしまった。
用意していた言い訳も、すべて飲み込んでしまった。
彼女は襁褓の中でわんわん泣いている赤ん坊を信じ難いような目で見つめ、言い表せない複雑な感情に襲われた。
まさか、川崎家のお嬢様である自分が、最後には田舎者が産んだ子供を頼りに、愛する男性と結婚することになるなんて…
「どうした?」
彼女の様子に気づいた藤原夜が眉をひそめた。
川崎美香は一瞬ですべての感情を隠し去った。
小さな顔を上げ、藤原夜に最も甘美な笑顔を向けた。「ただ嬉しくて。夜、私たちが結婚したら、きっと良い母親になるわ、良い妻にもなる」
藤原夜は長い指を伸ばし、抱いている赤ん坊の鼻先に軽く触れた。
心がどうしようもなく柔らかくなっていた。
「あの夜は偶然だった。結婚はしてやる。お前は母親としての役目を果たせばいい」
彼の言葉は川崎美香に向けられていたが、彼女に視線を向けることはなかった。
だから、川崎美香の一瞬陰鬱になった眼差しに気づくこともなかった…
……
深夜、ナンバープレートのない一台のワゴン車がS市の静かな道路を走っていた。
誰も気づかなかったが、トランクの中から女性の苦しげなうめき声と、赤ん坊のかすかな泣き声が漏れていた…
……
三年後。
S市。
セーヌインターナショナルの高級別荘区を、出前を持った特製メイド服姿の若い女性が歩いていた。
「玲子、セーヌインターナショナルの出前まだ届いてないの?あのお客さん、ちょっと怒ってるみたいよ。もし彼が怒鳴ってきても、聞き流して絶対に口答えしないでね…」
電話の向こうから親友の心配そうな声が聞こえてきた。
川崎玲子は少し困ったように思った。
こんなに心配されるなんて。
「わかってるわ。こんな高級別荘区に住んでる人は金持ちか偉い人だもの。怒らせるわけないじゃない」
話しながら、川崎玲子の目が輝いた。
「あっ」と彼女は声を上げた。「やっと99番地が見つかったわ!これを届けたら仕事終わり!切るね!」
彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに。
99番地別荘の豪華な電子ドアが轟然と開いた。
川崎玲子は反射的に職業的な笑顔を浮かべ、出前を差し出した。「こんにちは、お客様。お届け物で…」
しかし、ドアの中の冷たく気品あるハンサムな顔を見た瞬間、川崎玲子の笑顔は凍りついた。
なぜなら、目の前に立っていた男性は他でもない、三年前に一夜を共にした男性だった。
藤原夜!
こんなにはっきり覚えているのは、川崎玲子の20数年の人生で、これほど強烈なオーラと際立った容姿の男性を見たことがなかったからだ!
川崎家を離れた後、この男性とは二度と会うことはないだろうと思っていた。
まさか、彼がS市に来ているなんて!
川崎美香から藤原夜と会っても知らないふりをするよう言われていたことを思い出し、川崎玲子は反射的に逃げようとした。
しかし男性は彼女を見た瞬間、目に危険な興味の光を宿した。
手を伸ばし、女性の細い手首をつかんだ。
軽く力を入れ、彼女を自分の胸元へと引き寄せた。
「今日はコスプレか?」
温かい息が川崎玲子の頭上に降り注いだ。
川崎玲子は今や完全に藤原夜の腕の中に引き込まれていた。
薄いシャツ越しに、男性の筋肉の輪郭がはっきりと感じられた。
鼻腔に心地よい男性用香水の香りが届いた。
川崎玲子は突然、喉の渇きを覚えた。
「ふむ?なかなか好みを心得ているな」
川崎玲子が我に返る前に、男性の大きな手が再び彼女の細い腰に這い上がった。
川崎玲子は体が強張り、思わず喉から漏れそうになった嬌声を必死に抑えた。
目を見開き、困惑して藤原夜を見つめた。
彼は…一体何をするつもりなのか