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第8章 実家を出る

藤原夜は桜島ナナに料理を取り分けながら答えた。「あっちのことはもう全部手配済みだ。毎日来て料理や掃除をしてくれる人もいるし、会社からも近いから、ナナの通勤も楽になるだろう」

桜島ナナは隣で何度も頷いていた。「そうそう、それにわたしはもうすぐ藤原夜の秘書になるんだから、毎日きちんと出勤するのは大事なことなの」

藤原夜は同意を示した。「みんな知ってるだろうが、俺の秘書は楽じゃない。たとえ彼女であっても容赦はしないぞ」

藤原おばあちゃんはそれを聞いて不機嫌になった。「この馬鹿者!ナナはお前の嫁なんだよ、もう少し優しくできないのかい?もしナナが泣いて帰ってきたら、お爺ちゃんにぶん殴られる覚悟しておきなさい!」

社長が窮地に立たされ、桜島ナナはすかさずフォローに入った。「大丈夫ですよ、おばあちゃん。仕事はやっぱりきちんとするべきです。わたしへの優しさのせいで仕事にミスがあったら困りますもの」

藤原おばあちゃんは桜島ナナの思いやりのある様子を見て、さらに心配になった。「ガキ、こんな素晴らしい奥さんをもらえたのはお前の幸せだ!大事にしなさいよ!」

桜島ナナはその言葉を聞いて、心に苦さが広がった。彼女を大事にする必要なんてあるの?藤原夜はもうもっといい選択肢を見つけたのだから。

「わかってるよ、おばあちゃん。俺は必ずナナを大切にする」

桜島ナナの心は震えた。その言葉が年上たちへの単なるリップサービスだとわかっていても、どうしても心が動いてしまう。

田中晴子は藤原夜を軽く叩いた。「早く帰ってこなきゃよかったわ。帰ってきたと思ったら、ナナを働かせるだなんて。毎日私たちのそばにいられなくなるじゃない」

藤原夜も珍しく田中晴子に冗談を言った。「じゃあ、今から帰ろうか?」

そして名誉ある二度目の一撃を田中晴子から受けた。「いいから、ここにちゃんと残ってナナと一緒にいなさい」

藤原仁は少し考えた後、最終的な答えを出した。「二人が出て住むのもいいだろう。一つは通勤に便利だし、二人だけの空間で感情を育むこともできる。それに老奥様は眠りが浅いからな。若い二人だと、どうしても音が出てしまうこともあるだろう」

藤原おじいちゃんも同意した。「だが約束してくれ。これからは毎週一日は実家に戻ってくること、そして祝日は必ず帰ってくることだ」

桜島ナナはお爺さんを見て、心の中で思った。これからはわたしじゃなくなるかもしれないのに、お爺ちゃん。

藤原夜はあっさりと約束した。「もちろん問題ないよ」

出発の日、田中晴子は名残惜しそうに桜島ナナを抱きしめた。桜島ナナは藤原家に来てからずっと彼女に寄り添い、実の娘よりも多くの時間を共に過ごしてきた。そして桜島ナナはとても礼儀正しく、素直だった。

田中晴子は本当に彼女が好きで、今突然離れることは、自分の娘が海外留学に行った時と同じくらい寂しかった。

「あの子がもし意地悪したら、ママに電話しなさいよ。ママがあなたの味方になってあげるから」

桜島ナナは田中晴子のその様子を見て、思わず目が潤んだ。「はい」

最後に実家を見つめ、桜島ナナはゆっくりと名残惜しそうに車に乗り込んだ。

南町の家は藤原夜がとっくに人を遣わして準備させていたので、桜島ナナはすぐに住むことができた。

彼女はリビングのソファに座り、藤原夜にどうやって退職の件を切り出すか考えていた。実家から出たことだし、いつか藤原夜と離婚届を提出して、それから辞職すれば、永遠に自由になれる。

その後、働きたければ友達の会社で働けばいいし、働きたくなければ海外の家に行って、しばらくそこで生活してリラックスし、それから両親の故郷を訪ねてみようか。

桜島ナナが将来の生活を計画している間、藤原夜は家の中に自分の生活の痕跡を残そうと必死になっていた。実家の年上たちが検査にやってきたときのために。

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