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第54章 彼の心眼

夜の十一時、御苑の最上階。

桜島ナナが荷物箱を上階から必死に運び下ろしたところで、まだ息も整わないうちに、突然ドアの音がした。

彼がバーにいると聞いていたので、家政婦が寝静まった隙に急いで荷物をまとめていたのだ。

荷物箱から手を離す前に、ドアが外から押し開けられ、彼が清潔な白いシャツと黒いスラックスを身につけ、ゆっくりと彼女に近づいてきた。

近づいてきた彼の眉が寄っているのが、やっと見えた。

「何をしている?」

藤原夜が淡々と尋ねた。

だが答えは既に察していた。

前回も彼女はこうだった。彼が仕事のトラブルがあるという口実で人を使って彼女を呼び戻させなければ。

今回も彼の目を...