




第2章 離婚協議
桜島ナナはうなずき、少し硬い足取りで部屋に入った。
藤原夜は再び口を開いた。「結婚前に作成した婚前契約のことを覚えているよね?」
桜島ナナは再びうなずいた。
藤原夜は手慣れた様子で脇から契約書を取り出した。まるでこの日をずっと待ち望んでいたかのように。
「条項をよく確認して、問題なければサインしてくれ」
今回、桜島ナナはうなずかなかった。
彼女は数秒間黙り込み、その後契約書の内容を注意深く確認し始めた。
藤原夜は静かに佇む桜島ナナの様子を見て、突然この少女をからかいたい気持ちが湧いてきた。
「桜島ナナ、お前は口が利けないのか?」
サインしようとしていた桜島ナナは顔を上げ、真剣な表情で言った。「藤原様、わたしは口が利けないわけではありません」
藤原夜は桜島ナナが怒りや何か強い感情を示すと思っていたが、予想外の反応に驚いた。
彼女の真面目な表情が、意外にも可愛らしく見えた。
しばらくして藤原夜は我に返り、少し笑いながら「うん」と軽く返事をした。
彼はふと、彼女のこのおとなしい性格なら、離婚しなくてもいいかもしれないと思った。
そのとき、藤原夜の電話が鳴った。彼は画面を見て、口元に笑みを浮かべた。
「遥、どうした?つわりがひどいのか?」
藤原夜の声は柔らかく優しい、桜島ナナがこれまで一度も聞いたことのない口調だった。
彼はこんなにも優しく話すことができるのに、桜島ナナに対しては常に上司が部下に命令するような、感情のこもらない口調だった。
彼は彼女の夫なのに、今は別の女性を気遣い、自分の妻のことは顧みず、帰ってきても「最近元気だったか」という基本的な言葉さえかけなかった。
彼女が一人でここにいることがどれだけ辛いか知っているはずなのに、彼女が疲れていないかを一度も気にかけたことがなかった。
桜島ナナは何度も、自分が最も必要としているときに夫が突然現れ、すべての問題を一緒に背負ってくれることを願っていた。
しかし藤原夜はそうしなかった。彼は別の、彼を必要とする女性に寄り添っていた。
桜島ナナは本当に疲れ果てていた。彼女はもうこんな生活を続けたくなかった。自由が欲しかった。今日こそが、すべてを終わらせる時なのかもしれない。
そこで彼女は迷うことなく自分の名前にサインした。
その後、おとなしい子猫のように静かにその場で待っていた。
藤原夜は電話を切ると、そこに静かに立っている桜島ナナを見て、心に何かが静かに変化するのを感じた。
「今後何か必要なことがあれば、あまり無理な要求でなければ、応じるつもりだ。これはお婆さまたちの意向でもあり、俺の考えでもある」
「藤原様、ありがとうございます」
あなたと過ごせた短い時間をありがとう。その期間中、彼女は本当に藤原夜を手に入れたわけではなかったが、それでも十分だった。
二年間という時間は、桜島ナナにとってあまりにも長かった。
藤原夜は桜島ナナの決意に満ちた表情を見て、何かが失われたような気がした。考えた末、名目上の妻にきちんと説明すべきだと決めた。
結局、この数年間、家のことはすべて桜島ナナが忙しく対応し、彼に多くの問題を解決してくれていたのだから。
「すまない、この数年間つらい思いをさせた。だが今、遥は妊娠していて...」
藤原夜は言葉を続けなかったが、桜島ナナには理解できていた。
彼女は晴れやかな笑顔を浮かべて言った。「大丈夫です、藤原社長。これまでのことだけでも、わたしはとても幸せでした」