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第9章

佐藤橋は髪をまだ完全に乾かさないうちに急いで荷物をまとめて帰る準備を始めた。彼女は監督とカメラマンに丁寧に別れを告げ、バッグを掴むとそそくさとエレベーターに乗り込み、一階のロビーへと向かった。もう午後五時近くになっていて、このままだとアパートへの最終バスに間に合わなくなる恐れがあった。

佐藤橋がいるのは20階だった。いつもなら人でいっぱいのエレベーターが、なぜか今日は誰もいなかった。そのため佐藤橋はリラックスして、鼻歌さえ歌い始めた。実は佐藤橋は音痴というわけではなく、ただ音域が狭くて高音も低音も出せないだけだった。友達とカラオケに行くといつも笑われるが、それでも佐藤橋は歌うことが大好きだ...