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第6章

佐藤橋が風呂場から出てきたのは、大きなバスタオル一枚を体に巻いただけの姿だった。湯気で蒸された白い肌は、わずかにエビのような赤みを帯び、タオルの縁からのぞく鎖骨は、まるで肌に生まれながらにして刻まれた二筋の紅い痕のように見えた。

彼女は少し長風呂をしてしまった。早めに現場に着いたはずなのに、出てきた時にはスタッフたちがほぼ持ち場についていた。

佐藤橋は左右を見回したが、意外なことに自分のパートナーとなる男優の姿が見当たらなかった。視界に入るのは全て作業用のIDカードをぶら下げたスタッフばかりだった。

どうしよう?相手と撮影の細かい打ち合わせもできていないのに、あと五分で本番だというのに...