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第30章 行かないで

柳田佳恋が言い終わって振り返ると、塚本悟が彼女の後ろに立っていた。柳田佳恋は率先して机の上の鍵を取り上げた。「塚本社長、行きましょうか」

柳田佳恋の表情には少しの動揺もなかった。斎藤直人が柳田佳恋が先に歩いていくのを見ていると、塚本悟の表情はとても不機嫌そうだった。彼はちっと舌打ちした。

どうやら彼の友人の妻追いの道はまだまだ長そうだ。

柳田佳恋が運転し、塚本悟は後部座席に座ったまま沈黙していた。

なんとも「何の気もない」とは。

なんとも「職責を全うする」とは。

塚本悟は窓を開け、冷たい風が車内に流れ込み、彼の混乱した思考に少しの清明さをもたらした。

たかが一人の女だろう?なぜ...