




第3章
鈴木直哉が夏目清子に「おばあさんから用事がある」と言ったのは、ただの口実だったのだが、雲頂別荘から出てくると、本当に鈴木おばあさんから電話がかかってきた。
「直哉、あなたと念ちゃんがずいぶん長いこと私と食事に来てないわね。忙しいなんて言い訳は聞きたくないわ。どんなに忙しくても、私と食事をする時間くらい作りなさい。今度の日曜日、念ちゃんと来て、私と食事をするのよ」
「おばあさん、私は......」
鈴木直哉が断る理由を探そうとした瞬間、鈴木おばあさんは一方的に電話を切ってしまった。反論の余地すら与えなかった。
通話終了の画面を見つめながら、鈴木直哉は怒りで唇を一文字に結んだ。
二人が早く子供を作るように、結婚当初から鈴木おばあさんは毎月十五日に晩餐に招き、その日は泊まっていくようにというルールを設けていた。
今はまだ月初めで、十五日までは二週間もある。この時期に鈴木おばあさんから電話がかかってくる理由はただ一つ。
水原念がおばあさんに告げ口をしたのだ。
離婚を切り出したのは彼女自身なのに、彼が背を向けた途端、おばあさんに駆け込むとは、なんて卑怯な女だ。
こんな狡猾な女を、なぜおばあさんは清子ではなく彼女を可愛がるのだろう。
そうか、彼女があまりにも狡猾で、人を騙すのが上手いからこそ、おばあさんを騙して自分との結婚を強いたのだ。もし彼女が清子のように優しく善良な女性だったら、決してこんなことはしなかっただろう。
どうやら前回の警告では足りなかったようだ。もっと残酷な手段で、彼女に教訓を与えなければならない。
浴室での「懲罰」を思い出すと、鈴木直哉は全身の血液が下半身に集中するのを感じた。
早く彼女を見つけ出し、徹底的に懲らしめてやる。清子を陥れたり、おばあさんに告げ口したりするような真似を二度とできないようにしてやる。
鈴木直哉は車に乗り込むと、アクセルを思いきり踏み込み、新居へと急いだ。
途中、夏目清子が水原念によってエレベーターに閉じ込められた別荘の前で、鈴木直哉は車を止めて中に入った。
この別荘は鈴木直哉が夏目清子のために買った最初の別荘で、普段夏目清子はここに住んでいた。
水原念が夏目清子を別荘のエレベーターに閉じ込めたため、鈴木直哉は彼女を連れ出し、雲頂別荘へ移したのだった。
別荘の中では、二人の使用人が話し合っていた。
「エレベーターの端にある血、見ましたか?」
「ええ、見ました。どうしたんでしょう?なぜ血が?夏目さんは鈴木様に抱えられて出てきたんですよね?怪我はなかったはずです。鈴木様は夏目さんをあんなに大事にされているのに、奥様のせいで夏目さんが血を流したら、鈴木様はさぞかしお怒りになるでしょう」
「あれは夏目さんの血じゃないんです。奥様の血です」
「奥様の?でも奥様が夏目さんをエレベーターに閉じ込めたんじゃないですか?怪我をするとしたら夏目さんのはずなのに、どうして奥様が怪我を?」
「間違いなく奥様の血です。覚えていませんか?あの時、鈴木様も奥様も、私たちも全員エレベーターの前で夏目さんを救出しようとしていました。後に夏目さんが引き上げられ、鈴木様が彼女を抱き上げた時、彼女の足が奥様を蹴り落としたんです。その時エレベーターはまだ一階と二階の間に止まっていましたよ。鈴木様が夏目さんを抱えて行かれ、私たちも一緒についていきました。奥様がエレベーターの中で悲痛な叫び声を上げていたのを、かすかに聞いた気がしましたが、誰も気にしませんでした。私も言い出せませんでした。夏目さんに問題がないと確認して戻ってきたとき、エレベーターの端に血があるのを発見しました。おそらく奥様が自力でエレベーターから這い出ようとして、壊れたエレベーターのドアで切ってしまったのでしょう」
「奥様は......自業自得ですね。そもそも夏目さんをエレベーターに閉じ込めなければ良かったんです。最初からそんなことをしなければ、エレベーターに蹴り落とされることもなかったでしょう」
「私も奥様が最初にしたことは間違っていたと思います。でも、あの時の奥様の叫び声がどれほど恐ろしかったか、あなたには分かりません。まるで中に毒蛇や猛獣がいて彼女を噛もうとしているかのようでした」
「奥様が何を叫んでいたって?ただ落ちただけじゃないですか?エレベーターが一階と二階の間に止まっていたとしても、半階分の落下です。死ぬわけではないのに、何を騒いでいるんですか。叫ぶとしたら夏目さんの方でしょう。夏目さんは閉所恐怖症で、密閉された空間に閉じ込められると恐怖を感じるのに、奥様にはそんな恐怖症はないはずです」
「夏目さんの閉所恐怖症と言えば、彼女がエレベーターに閉じ込められていた時、叫び声を聞きましたか?」
「私は......聞いていません」
「私も聞いていません」
不気味な沈黙が流れた。
二人はお互いを見つめ合い、言葉を失った。
しばらくして、ようやく声が再び聞こえた。
「もしかして、私たちが後ろの庭園にいて、遠かったから聞こえなかったのでしょうか?」
「たぶん......そうでしょうね」
結局、閉所恐怖症なのは夏目さんであって、奥様ではないのだから。
鈴木直哉は別荘の入り口に立ち、眉をひそめていた。
水原念が怪我をした?自分はそんなことに気づかなかった。
それに清子が誤って水原念をエレベーターに蹴り落としたなんて、ありえない。
清子はあんなに優しい人だ、決してそんなことはしないはずだ。
きっと水原念が自ら飛び降りて大騒ぎし、清子を陥れようとしたのだろう。
この二人の使用人も、水原念に買収されて、わざとここで話をして自分に聞かせようとしているに違いない。
前、清子がエレベーターに閉じ込められても長い間見つからなかったのも、きっと水原念がこの二人の使用人に近づくなと言ったからだろう。
水原念、俺は君に鈴木家の奥様という名分を与えたというのに、君は俺の使用人まで買収して清子を陥れようとするとは、本当に——悪辣すぎる!
「何をしている!」鈴木直哉は足を踏み入れた。
「俺がお金を払って雇ったのは、清子の世話をさせるためであって、他人と共謀して彼女を害し、ここでゴシップを広めるためではない。二人とも出ていけ、もう来なくていい。解雇だ」
二人の使用人が反応する間もなく、鈴木直哉は踵を返して立ち去った。
彼は新居へ急ぎ、水原念を見つけ出して懲らしめ、同時に悪事をやめるよう警告しなければならなかった。そうしなければ、誰が説得しようと、どんな手段を使おうと、彼は彼女と離婚するつもりだった。
鈴木直哉は最速で車を走らせ、二人の新居である別荘に到着した。
「水原念!水原念、出てこい!」鈴木直哉はドアを蹴破り、大股で中に入った。
「水原念、君が何をしたか自分でよく分かっているはずだ。さっさと出てきて謝れ!」
「水原念!」
鈴木直哉は何度も呼びかけたが、誰も応答しなかった。
「水原念、隠れていれば済むと思うな。隠れていれば、もっと厳しく罰してやる。今すぐ出てきて素直に謝り、清子に謝罪すれば、まだ許してやる」
別荘内は依然として静寂に包まれ、何の反応もなかった。
鈴木直哉は「......」と言葉を失った。
彼はさらに怒りを募らせ、声はさらに冷たくなった。「誰かいるのか?水原念はどこだ?彼女を探し出せ!」
......
しかし、静寂だけが返ってきた。
このとき鈴木直哉はようやく思い出した。水原念を苦しめ、彼女がおばあさんを利用して自分との結婚を強いたことへの報復として、この別荘には使用人を一人も雇っていなかったのだ。
床拭きや階段、手すりなど、すべての作業は水原念一人にさせていた。
使用人がいないため、鈴木直哉は自ら探すしかなかった。
上階、下階、浴室、キッチン、寝室、書斎、シアタールーム、屋上のプール、裏庭、さらには地下駐車場まで、鈴木直哉はくまなく探したが、水原念の姿は見つからなかった。
最後に、鈴木直哉は自分の書斎の机の上に、水原念がすでに署名した離婚協議書を発見し、入り口のゴミ箱には二人の唯一一緒に撮った写真を見つけた。
当初、水原念との結婚に際して、彼は区役所での婚姻届提出にすら行きたがらなかったため、当然ながら結婚写真を撮りに行くこともなかった。
その写真は、結婚後初めての月の十五日、おばあさんの家に食事に行った際、水原念が彼の傍らに寄って笑わせようとした瞬間を、鈴木おばあさんが撮影したものだった。
水原念はおばあさんからその写真をもらい、自らウェディングショップに持ち込んで現像し、額装して、寝室のベッドヘッドに結婚写真として飾ったのだった。
彼はまだ覚えていた。写真を飾った日、水原念が彼の隣に立ち、取り入るように言った言葉を。
「洗練された豪華な結婚写真より、私はこういう生活感あふれる写真の方が好き」
今、その「生活感あふれる」結婚写真は、静かにゴミ箱の中に横たわっていた。
写真を覆うガラスは砕け散り、彼の冷淡な顔と水原念の笑顔を引き裂き、正体不明の赤い液体が付着し、まるで二人の顔から流れ出た血のようだった。
鈴木直哉は今日二度目の、心臓を掴まれるような痛みを感じた。
水原念は本当に彼と離婚するつもりだった。
感情的になっているわけでも、策略を巡らせているわけでもない。
彼女は本当に、彼の元から去ろうとしていたのだ。