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第26章

夏目清子は夏目天明を見つめ、唇を軽く噛んだ。

病室のドアはすぐに閉められ、部屋の中には夏目清子と鈴木直哉の二人だけが残された。

「清子」

鈴木直哉はベッドの傍らに座り、彼女の頬の涙を拭った。

「何を泣いているんだ。泣くことなんてないだろう。結局、階段から落ちたのは清子じゃなく、水原念だったんだからな」

夏目清子は「……」と言葉を失った。

彼女の心は一瞬止まった。鈴木直哉はどういう意味で言ったの?落ちたのが水原念だから、彼は心を痛めているの?彼は水原念を好きになって、私のことを好きじゃなくなったの?

「直哉、私はただ……」夏目清子は唇を噛んだ。

「ただ何だ?」涙を拭っていた大き...