




第8章
その時、後ろから数人のボディーガードらしき人物が駆け寄ってきた。ハーフの美青年を見つけると、明らかに安堵の表情を浮かべた。
「若様、パーティーはもう始まっております。ご両親様があちこちでお探しです!」
だが、ハーフの美青年の目は葉山萌香が去った方向を焦りがちに追っており、追いかけようと足を踏み出した。
ボディーガード達は目配せを交わすと、彼を抱え上げるように連れ去り、両親の元へと連れ戻した。
今日は彼の誕生日で、本来ならアイスランドの黒砂海岸でバカンスを過ごすはずだった。
しかし両親は誕生日パーティーを開くことを譲らなかった。
権力者たちと知り合いになっておけば、将来事業を継いだ時に付き合いがある人々だからと。
葉山萌香はすらりとした長身で、生まれつきの白い肌が、クルーズ船の灯りに照らされ、周囲の視線を集めていた。
彼女は周りの視線を意に介さず、優雅にウェイターのトレイからシャンパンを手に取り、青村華の姿を探していた。
今夜のパーティーは、高級ジュエリーブランドの若様の二十歳の誕生日パーティー。
日本の名だたる顔ぶれが、来られる者は皆来ていた。
青木琛の両親は海外で事業を視察中で、青木琛が付き添い役となった。
しかし......
「司、葉山秘書をこういう場に連れてくるなんて珍しいな」青木琛はデッキのソファに座り、遠くで写真を撮り歩く白石月子に目をやった。
「確かに白石さんに似てるけど、性格は......」
高橋司は悠然とグラスを揺らしていた。
「最近、葉山萌香の話をよくするな。どうした?気になるのか?」
「ダメなのか?」青木琛は目を輝かせて高橋司を見つめた。
高橋司は青木琛を見上げ、冷たく警告した。「やってみろ」
「冗談、冗談だ!」青木琛は両手を挙げた。
その時、白石月子が慌てて駆け寄ってきた。
青木琛は高橋司の表情に一瞬の嫌悪を見て取った。
「司お兄さん!葉山萌香を見かけました!」
白石月子は焦りながら口を開いた。
高橋司は眉をひそめた。「なぜここにいる?」
そして高橋司はマストの傍に立ち、下を見下ろした。
一目で葉山萌香を見つけた。彼女は目立ちすぎて、わざわざ探す必要もなかった。
艶やかな顔に淡い笑みを浮かべ、太った中年男性から名刺を受け取り、小さなハンドバッグにしまうのが見えた。
高橋司の目が暗く沈んだ。
白石月子は心配そうな顔で言った。「司お兄さん、青木さん、萌香姉さんって、パトロン探しに来たんじゃ......」
「それはおかしいだろ。司がお前といるんだから、葉山秘書だって次の男を探してもいいじゃないか」青木琛はポケットに手を入れ、ワイングラスを揺らしながら白石月子に笑いかけた。
「司お兄さんが可哀想で......」白石月子は高橋司に寄り添おうとした。
「人のことは放っておけ。自分の楽しみに行け」
高橋司は さりげなく体をずらし、白石月子を避けた。
白石月子は一瞬体を強張らせ、つらそうに頷いた。「わかったか」
立ち去る前に、もう一度葉山萌香を見た。
葉山萌香の艶やかな様子は、会社での姿とは全く別人のようだった。
でも良かった。高橋司は派手な化粧の女性が大嫌いだから!
突然、何かを思いついたように目を輝かせ、すぐに下へと向かった。
青木琛も視線を戻し、高橋司を見た。
「高橋社長、これだけの美人を何年も埋もれさせてたなんて!」
以前の葉山萌香は感情のない機械のように、つまらなく薄っぺらい印象だった。
今の葉山秘書は、まるで絶世の美女のよう。
青木琛は、事態が面白くなってきたと感じた。
「自分から堕ちていくのだ」高橋司は冷たく四文字を吐いた。
青木琛は意地悪そうに笑った。
強がってはいるものの、かなり頭に来ているようだな。
しかし......
本当に葉山萌香はパトロン探しに来たのだろうか?