




第7章 協力しましょう
夜の八時五十分、塚本恭平は高級車で警察署周辺に到着した。
腕時計を確認すると、約束の時間まであと十分。
自分のキャラに合うため、アシスタントは同行させなかった。
スーツを軽く整えてから車を降り、長い脚で路地の奥へと歩を進めた。
久しぶりの徒歩での外食だったせいか、塚本恭平はしばらく道に迷ってしまった。
携帯を取り出し、もう一度メッセージを確認する。
「警察署の向かい、内田食堂、夜九時、藤原真央」
同じ角を三度目に通り過ぎた頃には、塚本恭平の忍耐は限界に達していた。
本当に「内田食堂」なんて店が存在するのかさえ疑い始めていた。
昼間の電話を思い出し、眉をひそめる。この女、わざとからかっているんじゃないのか。
「お兄さん、さっきからうろうろしてるけど、何か探してるのかい?」
路傍で涼んでいたおじいさんが、団扇を揺らしながら、スーツ姿の男を不思議そうに見つめた。
おじいさんの助けを借りて、
十分後、塚本恭平はようやく路地の隅に隠れるように建つ小さな飯屋を見つけた。
腕時計を見ると、十時まであと十分。
店に入ると、極めて小さな店内で、ほとんど装飾らしいものもなく、質素なテーブルと椅子が一目で見渡せた。
入店時に女の不機嫌な顔を見るつもりだったが、店内はがらんとしていて誰もいなかった。
よし、あの女はまだ来ていない。自分より遅刻とは。
塚本恭平は怒りを抑えながら、狭い席に座り、メニューを眺めた。
再び眉をひそめる。肉まん、うどん、ラーメン。全て路傍の安物で、塚本恭平の中では合成肉使用の不衛生な食べ物の代表だった。
しばらくすると店の扉が開き、一人の女が小走りで入ってきた。
「本当に申し訳ありません。忙しすぎて。お食事は私が奢らせていただきます。お詫びとして」
藤原真央は息を切らしながら言った。本当に忙しすぎて、約束のことをまた忘れてしまっていた。
「警察見習いが、そこまで忙しいものなのかな?」
塚本恭平の言葉には嘲りが込められていた。
藤原真央は一瞬固まり、すぐに口を開いた。
「私のことを調べたの?警察官を調査するなんて、違法行為よ?」
塚本恭平は横目で彼女を見た。
警察は本当に法律を理解しているのだろうか。ビッグデータの時代に、人の情報を調べるのに違法な手段など必要ないというのに。
「じゃあ、私を逮捕してみたら?そんな権限があるのかな」
男は平然と彼女を見つめた。
藤原真央は顔を背け、彼に対して何もできないことを悟りつつも、塚本恭平の態度が気に入らなかった。
「調子に乗らないで。もし違法行為をしたら必ず逮捕するわ」
塚本恭平は彼女の警告など気にも留めず、座るよう促した。
「今日来た目的は簡単だ。君と取引がしたい」
普段から商談に慣れている塚本恭平は、いつもの仕事モードで話を切り出した。
藤原真央は店主に夜食をたくさん注文してから、やっと口を開いた。
「その理由は?」
塚本恭平はテーブルに両手をついた。身長180センチを超える彼には、このテーブルは低すぎた。
「母が結婚を急かしてくる。体調も悪いし、母の心を傷つけたくない。かといって他の女と結婚する気もない。既に婚姻届は出しているんだから、互いに利用し合えばいい」
この取引案は、藤原真央の身辺調査を終えてから決めたものだった。
どうせ母親に結婚を迫られるなら、いっそ既成事実を利用しよう。藤原真央なら、母が言う竹下さんよりはコントロールしやすいはずだ。
金に貪欲なのは同じでも、藤原真央なら母親から金を騙し取ることはできないだろう。
「お断りよ。あなたと取引なんてする必要ないわ。それに今は結婚したくない。離婚しましょう、一ヶ月なんてすぐよ」