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第3章 罠をかける

もうこうなった以上、藤原真央は考えるのを止めた。散らかったクローゼットを見つめながら、村井雄一が金と一緒に持ち去った下着のことを思うと、吐き気を催した。村井雄一のような人渣は、一度殴っただけでは済まないはずだ。

スマホを取り出し、村井雄一への制裁方法を思いついた。

一方、村井雄一は母親の小言を聞きながら薬を塗っていた。ポケットの袋はどこかに落としてしまったらしいが、今は探しに行く勇気もない。

だって、袋の中身は人目に触れてはいけないものだ。全て藤原真央のせいだ。早く帰ってこなければ良かったのに、よりによってこんな時間に。それに、あんなに手加減なしで。

「ピコーン……」

村井雄一のスマホに友達申請が届いた。

美女のアイコンが目に飛び込んできた。位置情報を見ると、わずか数百メートルの距離だった。

村井雄一は即座に承認した。

一方、藤原真央は弟を寝かしつけてから外に出た。

深夜一時を過ぎ、リビングは静まり返っていた。村井雄一の部屋の明かりだけが灯っていた。

「あんた、藤原真央みたいな子に手を出すもんじゃないよ……」

おばさんの声だった。藤原真央は不思議に思った。どうしておばさんが自分の味方をするのか。

「あんたの考えてることはわかるよ。私だってあの子を家に置きたいと思ってる。今時お嫁さんもらうのにいくらかかると思う?何百万円もするんだよ」

「藤原真央があんたと結婚すれば、その金が浮くじゃない。それに、あの子は綺麗だし、稼ぎもいい。母さんは知ってるよ、あんたがずっとあの子のことを気にかけてたの……でも、今じゃないの……」

おばさんの言葉に、暗闇の中の藤原真央は鳥肌が立った。

おばさんが自分を家に置いていたのはこんな理由だったとは、想像もしていなかった。

まさに、人は見かけによらないものだ。

「母さん、わかったよ。早く寝てよ……」

村井雄一が母親を追い払うように言った。

藤原真央はそれを聞くと、すぐに玄関から出て、階段の踊り場に身を隠した。

しばらくすると、案の定、村井雄一が家から抜け出してきた。

藤原真央は彼がエレベーターに乗るのを見て、階段を駆け下りた。

マンションを出た村井雄一は、ナビに従って路地裏へと向かった。

先ほどの美女からの連絡先を思い出し、胸が高鳴る。藤原真央のあまはさわらせてくれないが、外で誰かを探すくらいいいだろう。

「お姉さん、着きましたよ。どこにいますか?」

藤原真央のスマホに村井雄一からメッセージが届いた。

この男と一言でも会話を交わすのが吐き気がするほど嫌だった。だから一言だけ返信した。

「振り向いて」

村井雄一が言われた通り振り向くと、次の瞬間、頭から布団袋を被せられた。

見覚えのある棒が、さっきの家での時よりも激しく体を打ちつけてきた。

村井雄一はただ頭を抱えて許しを請うことしかできなかった。

どれくらい時間が経ったのだろう。新たな打撃を感じなくなってから、やっと恐る恐る布団袋を取った。

人気のない路地には誰もいなかった。警察に通報したくても出来なかった。なぜなら、金を払って女性を誘おうとしていたからだ。

わいせつで逮捕されかねない。歯を食いしばって我慢するしかなく、小声で罵りながら、体の傷を押さえて、よろよろと家路についた。

家に戻ると、藤原真央は寝室で荷物をまとめていた。

彼女は決心していた。弟を連れてここを出ることを。

藤原翔太は静かに眠っていた。長い間日光を浴びていないせいで、肌は青白かった。

彼は極めて美しく、藤原真央よりも一層綺麗だった。見た人は誰もが翔太を人形のようだと言った。

しかし、あまりにも整った容姿は必ずしも良いことばかりではない。藤原翔太は幼い頃から歌舞伎症候群と診断されていた。

これこそが、藤原真央がどこへ行くにも弟を連れて行き、おばさんのそんな態度に直面しながらも、簡単に住まいを変えようとしなかった理由だった。

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