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第1226話彼を忘れろ

エイドリアンは他に何も言いたいことはなかったのだろうか。

しばらく、二人とも口を開かなかった。

ふと、ナタリーは少し先に桜の木があるのに気づいた。

ハワード家では唯一の桜の木のようだった。

ナタリーははっとした。

エイドリアンがバラ園を撤去して代わりに桜の木を植えると言っていたのを、ふと思い出したのだ。

「これが桜の木なのね」ナタリーの目が輝いた。

エイドリアンも彼女の視線を追い、その目が和らいだ。「今は桜が咲く季節じゃないから、ビニールカバーがかけてあるんだ」

「あなたが戻ってくる頃には完全に枯れてしまっているでしょうけど、春にはまた咲くわ」

「エイドリアン、やっぱりありが...