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第839話私を置いて行かないで

アレクサンダーの長身が戸口に立っていたが、不意に浴室の方を振り返った。

「なぜ? 彼女はまだ俺の妻だ」

ヴィクトリアは冷たい水を出し、バスタブに身を浸した。

長くは正気でいられないかもしれないと彼女はわかっていた。次に何が起こるかわからない。このままでは、正気を失って飛び出し、目についた男なら誰とでもセックスを求めてしまうのだろうか?

ヴィクトリアが横を見ると、水晶の石があった。まるで救世主を見たかのように、彼女は素早くそれをつかんだ。

過ちを犯すくらいなら、自殺した方がましだ。

彼女は手の中の石を見つめ、その感触を確かめ、額に押し当ててみた。

痛かった。

まだ感覚はあったのだ。...