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第585章彼とエリザベスはいったい何を経験したのか?

ドリアンには記憶が一切なかった。エリザベスという人物がいて、その名前に強烈な聞き覚えがあることだけは分かっていたが、それ以外は何も、ほんの僅かな痕跡すら思い出せなかった。

ジェーンが自ら語ったのを聞いたのは、つい先ほどのことであった。

彼はエリザベスのために王位を放棄したのだ。彼にとって、彼女はとてつもなく重要な存在だったに違いない。

だが今、彼はエリザベスのことさえ思い出せないのだ。

ドリアンは、これほど長年にわたって一人の人間を忘れてしまうなど、想像もできなかった。

グレイスを見たとき、彼女に関する記憶が脳裏に溢れ出しそうになったのも無理はない。それには理由があったのだ。

ジェ...