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第669話難破船以外の何物でもない

朦朧とする意識の中、サミュエルはテイラーが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

「サミュエル、起きて」

「浴室から温かいタオルを持ってきてあげる。体を拭いたらさっぱりするわよ」

「どうしてそんなふうに笑っているの? 会社が利益を出した時でさえ、そんなに嬉しそうな顔はしてなかったのに。私と結婚するのが、本当にそんなに嬉しいの?」

サミュエルは眉をひそめた。

あれは、二人の結婚式の夜のことだった。テイラーはとても優しく、献身的で、尽きることのないような温かさで彼を気遣ってくれた。今、その同じ優しさは別の男――ジュリアンのものになっている。

「テイラー……テイラー」

夜風が吹き付ける...