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635話ジュリアン:心をつかむ

サミュエルが歩み寄ってきた。

ゼノビアは神経質にテイラーへと視線を走らせた。サミュエルに会話を聞かれるのを――あるいはもっと悪いことに、テイラーが彼女の既婚の事実を口走ってしまうのを恐れているかのようだった。

その心配は無用だった。

テイラーは彼女の個人的なごたごたに興味はなかった。タラッサの治療を引き受けた以上、全力を尽くすつもりだ。しかし心臓移植は運命が采配を振るうゲームであり、金や意志の力で保証できるものではない。

テイラーの表情が冷たく、何を考えているか読み取れないままでいると、ゼノビアは安堵した。彼女は親密さを隠そうともせず、サミュエルの肩に寄りかかり、タラッサの病状の危険性...