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92話

トリスタン

空気を切り裂くような音で、何か重いものが自分の方に飛んでくることに気づいた。リースの声が頭の中で「危ない!」と叫ぶより先のことだった。

近くのバラの茂みに向かってバッグを投げ、かがみ込むと、茶色の狼が私の前に転がってくるのが見えた。私は飛び上がり、奴が立ち上がって態勢を立て直す時間を与えずに、喉元に噛みついた。私の牙は粗い鬣を通り抜け、まるで熱いナイフがバターを切り裂くように頸静脈に沈み込み、血が私の吻から毛皮を伝って滴り落ちた。

周囲を見回すと、唸り声や痛みに満ちた遠吠え、肉が引き裂かれる音が聞こえてくる。ほんの少し前まで静かだった場所を取り囲むように。

右側では、マー...