3話
ローズ
何かにぶつかった。岩のように固く、私は後ろに跳ね返され、城の石の床に倒れそうになった。
だが最後の瞬間、私が後ろに倒れかけたとき、誰かの手が伸びて私の腕をつかみ、転倒を防いで再び足で立てるよう引き上げてくれた。
まだ涙が目に残っていて、何が起きているのか見えにくい。空いている手で涙を拭い、見上げると、あまりにも強烈な青い瞳と目が合った。まるで別の世界に迷い込んだかのようだ。こんな目をした獣人を見たことがない。
「大丈夫ですか？」と彼は言ったが、私を支えているのは彼ではなかった。彼の隣にいるのは、豊かなチョコレート色の瞳を持ち、ハンサムな顔に心配の色を浮かべた別の男性だった。彼の指が私の上腕を包み、もう一方の手は、おそらく私がバランスを崩した場合に備えて差し伸べられていた。
でも今は大丈夫だ。ただ驚いただけ。「は、はい」と何とか言葉を絞り出し、二人の間で視線を行き来させた。こんなにハンサムな男性を一人でさえ見たことがないのに、今は二人も目の前にいる。
青い目の方は、もう一人よりも少し背が高く、砂色のブロンドの髪と強烈な視線を持っていた。二人とも筋肉質だが、彼の方がもう一人よりも少しすらりとしている。茶色い目の救助者は、黒髪で、きちんと整えられたひげと口ひげを生やしていた。彼はもう一人より少し背が低いが、肩幅は広い。
二人とも純粋な筋肉の塊で、高級なスーツのパンツと白いボタンダウンシャツを着て、まるで王族のような格好をしていた。ブロンドの方は黒いジャケットも着ていた。彼らのスーツは私の家よりも高価だろう。
「すまない」と私がぶつかった青い目の彼が言った。
「大丈夫です」と私は返した。彼は明らかに寡黙な人だ。でも親切そうだ。ここの人たちがこんなに親切なのは驚きだ—ほとんどの場合は。全員がそうというわけではないけど。
彼らは私の両親よりも優しい…今のところは。
「何かお手伝いできることはありますか？」ともう一人が尋ねた。彼は丁寧な笑顔を見せ、一瞬、私のことを品定めしているように思えた。彼の目が私の胸に落ち、そして下へ、床まで行き、そしてゆっくりと上に戻ってきた。
「あの…医療検査室を探しているんです」と彼が私の腕を離したとき、私はどもりながら言った。彼の温かい指がなくなって、二頭筋が急に冷たく感じられ、彼の触れた場所にはまだ小さな電気のパルスが残っていた。
「あちらだ」と青い目の彼が肩越しに指さした。まだ十分に進んでいなかったようだ。
「ありがとうございます」と何とか言えた。もっと話したかったが、それ以上の言葉が出てこなかった。
「動揺しているようですね」と黒髪の男性が気づいた。「何か悩みがあるのですか、お嬢さん？」
彼があまりにも礼儀正しいので驚いた。父がアルファであっても、私が重要だと扱われることには慣れていない。「ああ、いえ、大丈夫です」と認めた。「ただ…緊張してるだけです」
「そのポジションを希望してるのか？」とブロンドの男性が尋ねた。
どのポジションかを特定する必要はなかった。皆が何を指しているか知っている。私はうなずいた。
「いいじゃないか」と他方が言った。私の目は彼の顔に向けられ、彼は私に笑いかけていた。それは少し傾いた笑顔で、普通の男性なら不気味に見えるかもしれないが、こんなに魅力的な人がその表情をしていると、愛らしく感じられた。
彼がそれで何を意味しているのか尋ねたかった。なぜ「いい」のだろう？なぜ私がここにいる理由を気にするのだろう？彼は重要な人物のように見えるが、誰かを推測する勇気はない。彼はベータか王の顧問の一人かもしれない。
「ぶつかってしまって申し訳ありません」と私は、おそらく私の額に胸の跡を残した男性に言った。
彼はくすりと笑った。「問題ない。俺はマークだ」
「マーク？」と私は、まるでその音を一度も発したことがないかのように繰り返した。
「そうだ」彼はまだ私に微笑んでいたが、私が言ったか行ったことが彼を面白がらせたようだ。
「そして僕はトリスタンだ」ともう一人が言った。
「こんにちは」それだけが私に言える言葉だった。彼らのハンサムさか、先ほど頭をぶつけたせいか、めまいがした。どちらかわからない。おそらく両方だ。
彼らは面白がった表情を交わしてから、トリスタンが私に尋ねた。「君の名前は何だい、スウィーティー？」
スウィーティー？誰かにそう呼ばれたことがあるだろうか。でも彼が言うと素敵に聞こえる。「あの…」私の名前が口から出てこなかった。まるで名前がないかのようだ。
「名前はあるよね？」トリスタンが尋ね、二人は再び笑った。
「はい」とようやく言えた。「ローズです。私はローズです」顔が服と同じ色に変わるのを感じた。どうして自分の名前さえ思い出せないのだろう？父は正しい。私はバカだ。
「素敵な名前だね」とトリスタンが言った。「花のような」
私は眉を上げた。ローズという花を聞いたことはないが、褒め言葉として受け取ろう。「ありがとうございます」
彼の笑顔が広がった。「そして、とても礼儀正しいね。さて、ローズ、これ以上君を引き止めないよ。きっとこの検査を早く済ませたいだろうから。でも、会えて本当に良かった」
私はうなずいた。「こちらこそ」二人を見比べた。マークも同意するようにうなずいた。
まだ顔を赤らめながら、私は二人の横を通り過ぎて進み続けたが、廊下を数歩進んだだけで、振り返って肩越しに見たくなった。
彼らはまだ動いておらず、二人とも私を見つめていた。トリスタンが手を振った。でも私は手を上げなかった。覗き見しているところを捕まってしまい、とても恥ずかしかった！再び前を向き、顔が感じるほど赤くないことを願いながら急いで立ち去った。頬が燃えるように熱かった。
歩きながら、あの二人の紳士が誰なのか考えた。彼らはとてもハンサムで教養があった。思わずに入られない。もしかしたら彼らはアルファの二人だったのだろうか？
「まさか」と私は独り言を言った。アルファたちが私のような人間と関わりたいとは思わないだろう。彼らが私を魅力的だと思っていたようなのは、少なくとも驚くべきことだ。地元の男の子たちは私を二度見ることもなかった。でも...私はアルファの娘で、彼らは父を恐れていたのかもしれない。
検査室に到着し、外で立ち止まって深呼吸した。
入りたくない。見知らぬ人が私の体を調べ、自分でさえ触れたことのない場所に触れるという考えは恐ろしい。
人生で初めて、今いる場所よりも家の方がましに思えた。
周りを見回した。逃げ場はないだろうか？隠れて、列車が城を出るときに乗り込めるかもしれない。
でも...前に進むしか選択肢はない。両親はこれを期待しているし、彼らが私をどう扱ってきたかを考えれば彼らに何も借りがあるとは思わないが、パックのためにこれをすると約束した。なぜいつも私がパックのためにこんな恐ろしい状況を引き受けなければならないのか、理解できない。
パックのために。それだけが私を前進させる理由だ。
どうにか足を前に動かし、検査室のドアを通り抜けると、そこは全てが白く、無菌で、漂白剤の匂いがした。
あの二人のハンサムな紳士についての考えはすべて脇に置かれ、ここから出たいという思いだけが頭を占めた。家に帰りたくはない、あの恐ろしい両親のもとに戻りたくないが、ここを離れたい。
逃げ出す考えが再び浮かんだ。両親と暮らすことに比べれば、路上で生活することはそんなに悪いだろうか？そうではないと思う。
でも今は逃げられない...だから続けなければならない。
看護師の制服を着た女性が受付から出てきた。「あら、やっと来たのね！」と彼女は唇を尖らせて言った。「もう10分近く待っていたのよ」
「ご、ごめんなさい」と私はどもった。ここの人たちが親切だというのは嘘だったようだ。
「迷ったの、お嬢さん？」と彼女は尋ねたが、「お嬢さん」と言う時の口調は愛称のようには聞こえなかった。
私はうなずいた。「はい、すみません」とつぶやいた。
彼女は私に向かって頭を振った。「そんなに難しくないわ。王の執務室から廊下をまっすぐ行くだけよ」
「はい、奥様」と私は口ごもった。
彼女は再び頭を振った。「ローズ・フォレスト？」
私は再びうなずいた。今日は言葉が出てこないので、話すよりもうなずく方がましだ。
「よろしい。検査室2に行って、服を脱いで、ガウンを着なさい。すぐに医師が来るわ」
また、私の目は固まり、足は動けなくなった。まるでバターナイフで自分の首を切れと言われたかのように彼女を見つめていた。
「どうしたの？」と彼女は要求した。「馬鹿なの？それとも耳が聞こえないの？」と彼女は私の肩をつかんで押した。
ハイヒールで不安定な私はこれに備えておらず、前につんのめり、石の床に顔面から落ちそうになった。何とか壁につかまって、転んで歯を折ることは避けられた。
彼女は「リストから外してもいいわね」とつぶやいた。そして声を上げて「行きなさい！」と叫んだ。
私はどうにか足をもつれから解き、再び動かし始め、廊下を進んだ。しかし、彼女がどの部屋に行けと言ったのか思い出せず、最初の部屋に向かい、それが正しいことを願った。
パックのためにこれをすると言ったことを忘れて！ここはひどい場所だ。もちろんマークとトリスタンを除いては。でも彼らはきっとこの全体に大きな役割はないはずだ。
私は両親と一緒に暮らして幸せだったことはない。彼らはいつも私に意地悪で、何をしても上手くできないと感じさせる。でも今この瞬間、世界で何よりも—ここを離れたい、たとえそれが彼らのもとに戻ることを意味するとしても。
必要なら下水処理センターにさえ戻るだろう。
カーテンを閉め、テーブルの上のガウンを見つけた。深呼吸して、手を回してドレスのチャックを下ろした。
苦悩はまだ始まったばかりだ。