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89話

静かな森の中で彼女の声は特に澄んで聞こえた。

立ち去ろうとしていたマーティンは、突然足を止めた。それは恋しさからくる幻聴だと思ったのだ。彼は動かず、目を閉じ、耳を澄まして注意深く聞いた。

しかし、よく聞いてみると、風に吹かれる葉のざわめきだけで、パトリシアの声の痕跡はなかった。

ほんの一瞬前に灯った希望は、瞬時に砕け散った。

失望したマーティンは目を開け、別の場所を探そうと準備した。しかし、一歩踏み出したとき、再びパトリシアの声が聞こえた。二度呼びかける声が。

「マーティン...」

「マーティン...」

今度は確かに聞こえた。幻ではなく、パトリシアの実際の声だった。

パトリシア...