5話
アルファ・コナー
携帯の着信音が鳴り、ベッドサイドテーブルの時計を確認した。真夜中を過ぎていた。目をこすりながらベッドサイドのランプをつける。こんな遅い時間に誰かが連絡してくるということは、重要な用件に違いない。
携帯を見ると、911で働いているパックのメンバーからの着信だった。ああ、女神よ。これは通常、誰かが事故に遭ったことを意味する。
「トム、今回は何だ？」ベッドで体を起こしながら、悪い知らせでないことを願う。
「アルファ・コナー、ソルティ・ムーンの森を車で通過中の女性から非常に不穏な電話を受けました」彼の声には動揺が混じっていた。
「それで？」
「彼女は誰かを轢いたと言いましたが、確認しに行ったとき遺体が見つからなかったそうです。彼女は人だと確信していたのですが、誰も見つからなかったので、鹿だと思ったようです」
「それのどこが不穏なんだ？そういう通報はいつもあるだろう？彼女はおそらく酔っていたんだ」私は彼を説得しようとする。ただ眠りに戻りたかった。
「アルファ、彼女は酔っていませんでした。非常に謝罪的な様子でした。安全のため車に戻るよう指示し、彼女がそうするまで通話を続けると伝えました。しかし、その後男性の声と彼女の悲鳴が聞こえました。彼女が最後に言った言葉は『助けて』でした。かすかでしたが、確かに聞こえました。現場に救急隊を派遣しました。アルファに電話したのは、確認してほしかったからです」
「通報者についての情報は？」イライラしながら頭をかく。くそ、なぜこういうことは真夜中に起こるんだ？
「電話番号はエイミー・マーガレット・ウィリアムズという名義です。ブリック郡病院の救急看護師です。彼女について病院に問い合わせたところ、アルファ...彼女は妊娠しているんです」トムの声には悲しみが滲んでいた。命を救う看護師が今や自分の命を救ってほしいと頼んでいる。人生の皮肉だ。
「心配するな、トム。俺が何とかする。彼女を探すために何人か派遣する。俺自身も確認しに行く」トムを慰める。彼はその女性を十分に助けられなかったことに罪悪感を感じているようだった。
「救急隊を派遣しました、アルファ。保安官もまもなく現場に到着するはずです。ありがとうございます、アルファ」トムは電話を切り、私は彼が今感じているであろう不安を感じずにはいられなかった。
コートを着ようとしたところで、また携帯が鳴り始めた。またトムからだと思い、ベッドサイドテーブルから携帯を取ったが、見知らぬ番号からの着信だった。こんな夜中に誰が電話してくるのだろうと思いながら応答する。
「もしもし、ナイト・ウォーカー・フォレスト・パックのアルファ・コナーですか？」男性が尋ねた。権威のある声だった。今度は何だ？
「そうだ。どちら様だ？」
「アルファ・コナー、私はロータス・パックのアルファ・ルーカス・ロックウッドだ。あなたの領域がソルティ・ムーン森と重なっていることは理解している。20代半ばの妊娠中の女性がそこを通過していないか知りたいんだが？」アルファ・ルーカス・ロックウッド！ニューヨークとニュージャージー州で最も裕福なアルファが、なぜその女性について私に電話してくるのだろう？予想以上に深い話があるようだ。
「同じ女性かどうかはわからないが、911のオペレーターとして働いているパックのメンバーから電話を受けたばかりだ。ある女性が誰かを轢いたかもしれないが遺体が見つからず、鹿だと思ったと言ったそうだ。また、彼女に車に戻るよう伝えた後に男性の声と悲鳴が聞こえたとも言っていた」一旦言葉を切る。その看護師との関係がわからないので、これ以上言うべきか迷った。彼女を標的にしたのが彼自身かもしれないのだから。「すでに部下たちがその地域を捜索している。私自身もこれから向かうところだ」
「その女性の身元について情報が入ったら教えてくれないか？彼女は親しい友人なんだ。看護師で、弟が医療が必要なときに助けてくれた」彼の説明は短く、私の頭に浮かぶすべての疑問に答えるものではなかった。この看護師は何かしら重要な人物のようだ。彼女に何か起こる前に急いで見つけなければ。
「わかった、そうする、アルファ・ルーカス」
「ありがとう、アルファ・コナー」彼は電話を切る。彼の番号を連絡先に登録しておく。再び電話があったときのために。
ベータはすでにパックハウスの階下で待っていて、ピックアップトラックが外に駐車してあった。私は彼に頷き、二人で家を出て、とても重要らしいその看護師を探しに行く。
「寒い夜だな、アルファ」ベータが言う。「誰を探してるんだ？」
「妊娠中の看護師だ。医者を起こしたか？」
「ああ、彼女はすでに高速道路に向かっている。他の者たちも全員だ。見つけるのは難しくないはずだ。保安官がすでにそこにいれば、彼女に会えるだろう」ベータは楽観的だった。残念ながら、私はその感情を共有できなかった。月の女神が今夜私たちの味方であることを願う。妊婦である看護師の死を自分の良心に背負いたくはない。
ソルティ・ムーンの森を通る高速道路まで15分のドライブだ。高速道路自体はほぼ15マイルの長さがある。
高速道路に入って約6マイルのところで、保安官車両の点滅するライトが見えた。その隣には救急車があった。私の部下の何人かはすでにそこにいて、周囲の安全を確保していた。私たちは路肩に駐車して飛び降りた。保安官と副保安官は頭を垂れていて、良いニュースではないことを意味していた。
「保安官、彼女の状態は？」私は彼と握手する。彼もパックのメンバーなので、遠回しな言い方はしないだろうとわかっていた。
「ローグの攻撃のようだ。喉の一部を噛みちぎられて、出血多量だ。医者とEMTが今対応している」彼はEMTが救急車に運び込んでいる担架の方に頷いた。
「生きているのか？」それは自分を納得させるための修辞的な質問だった。
「アルファ、彼女からはオオカミの匂いがします」保安官の答えに私は驚愕した。彼女は人間だと思っていたのに。
救急車は最寄りの外傷病院に向かうためバックする。サイレンが鳴り響き、森中に反響する。もし誰かが外で見ていたなら、彼女がまだ死んでいないことを知っただろう。
医者が血で汚れた手を拭きながら私の方に走ってくる。「アルファ、私は病院に行きます。その女性は人間ですが、彼女が身ごもっている子供はオオカミです」それで匂いの理由が説明できる。先ほどルーカス・ロックウッドが彼女の妊娠を知っていて電話してきたことを思い出す。もしかしたら彼の子供かもしれない。
「攻撃の最中に陣痛が始まりました。病院の医師たちと協力して二人の命を救います」
「俺も行く。このままにしておくのは気が進まない。お前たちの何人かは、保安官と一緒に森にローグがいないか確認してくれ。数人は俺と医者を病院まで護衛してくれ。今すぐだ！」
ベータと私がピックアップに乗り込もうとしたとき、前方で衝突音が聞こえ、煙が上がるのが見えた。くそ、また事故か？医者は前方を見て誰かが助けを必要としていることを悟り、車を止める。
「医者、部下たちと一緒に病院へ行け。ここの処理が終わったらすぐに追いつく」医者は頷き、急いで去っていった。保安官はすでに無線で通報していた。これは長い夜になりそうだ。
ベータと私は軍隊にいたとき医療訓練を受けていた。乗っているピックアップには緊急時用の医療用品が詰まっていた。救急車が到着するまで、被害者を安定させることができるだろう。
現場に着くと、二台の車があった。一台は木に衝突して炎上していた。もう一台はドアが開いていて、中に誰もいなかった。
保安官と副保安官は消火器を取り出し、高級車を包む火を消し始めた。ロックウッドの名前が頭をよぎる。
火が消えた後、生存者がいないか確認に行った。前部座席に二人の焼けた男性がいて、もう一人は後部座席に座っていた。
「身元確認のため、彼らの身分証を調べてくれ」私は指示する。ロックウッドでないことを祈っていた。これが将来の同盟関係に緊張をもたらすだろう。
保安官は後部座席の男性から財布を取り出す。焼けていて、運転免許証しか入っていなかった。クレジットカードも現金もない。
「ここには...ルーカス・ブレント・ロックウッドとあります」
私は頭を振り、手を腰に当て、怒りで雪を蹴った。必要なときに幸せな結末など訪れないものだ。